インチキは普通だそうです、それを十分に調べて下さるのがお役所でしょう」(東朝五月五日朝刊)。
五円の金が十円で売れるとなると、金は例の有名な物神崇拝性という魔術を振い始める。有形無形の金鉱が試掘され又は試掘権が売れ始める。或る者はショーヰンドーで街頭の金鉱を試掘する。金はたしかに幻影を産んでいる。だがこの幻影にはチャンとした客観的な金相場という物質的根柢がある。相場は人気で決まるように聞いているが、その人気が売買関係という客観的で物質的な地盤の上で正確に決まって来ている。処で満州という観念も亦今は甚だ人気がある。満州という観念は物神崇拝性と同じような魔術を持っている、満州という観念は一つの幻影を産んでいる。処がこの幻影は、「永遠の楽土」、「搾取なき天地」等々という精神的[#「精神的」に傍点]な地盤にその根を持っているのである。
リットン卿は甚だ認識不足であったと云うべきだろう。だがリットン卿の認識不足ばかりを余り非難しすぎる、と薬が利きすぎて、今度はこっち側で認識不足をやり始めるのである。そうして当局が憤慨されたり、職業紹介所が恨まれたりする破目に陥ることになるのである。ここの処、
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