しても必要な場合には、国家のため命を捨てることは必要でもあるし道徳的なことでもあるが、併し国家自身が折角、そういうことにはなるべくならぬように、万事を犠牲にしてまで莫大な国防費を費しているのに、それが戦争になりましたでは、全く国家に対して申し訳のない話しだろう。世間の普通一般人が戦争を惧れるということの内には無意識の中に、そういう忠良な意味が含まれているのである。
 だが幸にして北支問題は戦争へは導かなかった。よく考えて見ると、導く筈もなかったし、導き得るものでもなかったのである。中国中央軍と党部とが河北省を撤退するという中国側の最後の解答によって、日本軍部側の対支要求は都合全部容れられることになって、ここに河北省をめぐる限りの北支問題は一段落となったわけである。中国国民もそうだろうが、吾々日本人も(軍需工業家や戦争に特別な利益を感じる商売人は除いて)之で一まずホッとしたと云っていい。
 アメリカやイギリスの一部の輿論には、この北支問題を目して北支独立に導く心算ではないかと憂えた向きもあったようだ。だがそういうことは云うまでもなく無意味なデマに過ぎない。一体そんなに容易に一つの国が独立
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