はなくて、早く井上・団・両氏の暗殺にもつながり、更により以前にさかのぼれば、流言蜚語として一部に伝えられたる事すら、全く根もないことではなかったのではないかと思い当らしむるものがあるのである。」井上・団・暗殺事件というのは今云った血盟団の仕事のことであるが、それ以前に、流言蜚語として一部に伝えられたものが何だかに就いては、吾々良民は一向見当が付き兼ねる。
所謂五・一五事件なるものは、単なる五・一五事件でないばかりではなく、五・一五事件+血盟団事件だけでもないらしい。処で之を「五・一五事件」[#「五・一五事件」は底本では「五一・五事件」]として、或いは已むを得なければ「五・一五+血盟団事件」として、孤立させて発表するのには、当局に何かの都合があることだろう。この当局の都合も顧ずに、五・一五事件の全貌[#「全貌」に傍点]が発表されたとか何とか云って騒ぎ立てるのは、甚だ思いやりのなさすぎることではないか。
もし思いやりがなさすぎるのでなければ思いやりがありすぎることなのだ。
この事件が「発表」されたという事件に就いて、判らない点はまだまだある。新聞紙が伝える処によると、この「発表」の仕
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