ひょっとすると自分は英雄になったのかも知れない、或いは神様に之から祭られるのかも知れない、それでこんな特別な着物を着なければならぬのかも知れないとも考えられたが、併し反対に、自分が今決死隊か何かで、又死刑囚か何かで、それとも又祭壇に捧げられる犠牲か何かで、皆んが[#「皆んが」はママ]責任を自分になすりつけるために、自分を飾り立てているのではないかしら、という心配もしないではいられなくなって来た。
 大人や小供が身動きの出来ないように列車のホームに押しかけて来た。顔馴染の人もいたが、全く見知り合いのない弥次馬風の人間も多い。愈々自分がどうにかされるのだなと覚悟を決めざるを得なくなった。処が突然ある紳士が皆の前に押し分けて出て来て、何か挨拶を始めた。それから神主が何のためか知らないが祝詞を上げた。それが終ると渋谷の駅長さんが又何か喋った。けれどもこの時からハチ公に不思議に思えてならないのは、皆んなの注目の的が、自分よりも他の何かのものに移って了っているらしいということだった。とそう思っていると十歳ばかりになった女の児が出て来て、眼の前につるしてあった、彼が着せられたと同じ紅白の幕を引き降ろ
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