で、スッカリ人違いをして了ったわけだ。――だがいくら何でも時の検事総長と一弁護士とを単に名前が同じで而もあり振れた小山という名だというだけで、人違いをするのは、あまりと云えばあまりだと思っていると、岡本氏が証人として挙げている「鯉住」の女将お鯉さんが、憲兵隊へわざわざ自分から出頭して確かに検事総長の小山さんに違いないと申し出たのである。
 そこで検事局ではお鯉さんと弁護士の[#「弁護士の」は底本では「辞護士の」]方の小山氏とを対質させて見ると、弁護士は「私が鯉住へ云った」と云い、之に対してお鯉さんは「あなたは来なかった」というので、一向埒があかない。そこで、どうもお鯉さんが嘘をついているらしいと云うので、宣誓させてもう一遍テストすると、矢張小山検事総長に違いないというので、遂々検事局は、お鯉さんを偽証罪で告発し、市カ谷刑務所に収容して了ったわけである。
 お鯉さんと岡本代議士との背後には黒幕があって、それが二人を操っているという、検事局の見込みらしい。それに関係して某代議士も召喚されるかも知れないという。なる程そういうことも大いにありそうなことだ。だがお鯉さんはかつては数多の高位顕官を
前へ 次へ
全402ページ中177ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
戸坂 潤 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング