長官へ向け内務省は発している。
弾圧されはしないかと思って尻ごみしている人間は、よろしくそんな誤解はすてて、ドシドシ減刑運動をなさい、決して弾圧などはしませんから、ということに、これはよく考えて見るとなるのである。
減刑運動は遂に内務省の知らず知らず××する処となった。今や減刑運動は完全に合法性を獲得した。でこれから先どうなるのだろうか。時に「非常時」党の諸君! 一つ××救援会[#「救援会」に傍点]でも組織して見たらばどうか?
この問題が解決しないと、五・一五の裁判も何か奥歯に物が挟ったようで、まだまだホットするのに早過ぎる。
三、監置主義と治療主義
東京府立松沢病院は日本に於ける最も代表的な精神病院である。処がここで、昨年看護人が患者を殴り殺したという事件が起きて世人を憤慨させたのは有名であるが、今度は一狂人が他の狂人を殴り殺したという事件が起きた。次は多分、狂人が看護人を殴り殺す番だろう。
病院側の不埒な点を挙げると、狂暴性の患者を二名同室せしめたこと、致命的な傷を受けるまで放置しておいたこと、更に事件以後三日目に死亡するまで患者の家庭はいうまでもなく院内の駐在所へさえ知らせなかったこと、等々のようである。
これで見ると一体精神病院というものは病院なのか懲治監なのか判らなくなるだろう。何しろ相手が狂人だから何をしたって解らないし、各家庭の者が検べに行っても適当に会わせたり会わせなかったりすれば好いわけで、その上私立病院などならば食費その他だけでも相当患者を絞れる可能性さえあるだろう。事件は一松沢病院だけの問題でもなく、又殺人患者池田某だけの問題でもない。精神病者の社会的取り扱いの上の根本問題でなければならない。
この問題に関係があるのか無いのかハッキリしないが、それから時日がしばらく経って、内務省は精神病院主・院長・会議に於て、精神病院法並びに精神病者看護法改正に関する希望を諮問している。というのは従来の監置主義[#「監置主義」に傍点]を治療主義[#「治療主義」に傍点]に改める必要を感じたからだそうである。
なる程この改正方針から見ると、従来の精神病院は治療所であるよりも寧ろ監置場であるのを面目としていたらしいから、一種の×××か×××のようなもので元来病院ではなかったわけだから、患者の一人や二人××××れるということも大して異とするに足りないわけだ。今度から監置主義の代りに治療主義になったとしたら、従来の精神「病院」という名前の代りに、何という名を付けたら好いかが恐らく大問題になるだろう。
精神病院は監置主義を捨てて治療主義になるそうだ。処が癩病院も亦、この頃監置主義・隔離主義を捨てる方針らしい。大阪にある外島保養院(之は二府十県の連合経営のものだから之亦最も代表的な癩病院だ)で、院長と患者とそれに関係の警部某とが共謀して、二十名程の患者を院外へ追放した、という奇怪な事件が発生した。検べて見るとこの二十名程のものは赤いレプラ患者だったというので、当局は色々な意味で狼狽しているのだが、なぜ又責任ある院長が衛生上こんなに無茶な処置を大胆にも取る気になったかは、一寸奇怪に思われてなるまい。
併し事「赤」に関する限り、衛生学も医学も科学も消し飛んで了うのが現代の風俗なのだから、大して驚くには当らないのである。院長は多分、一パシ世間並の立派な処置を取った積りだったのだろう。傷ましいのはいずれにしても患者達である。
精神病では治療主義の採用へ、癩病でさえ監置主義の抛擲へ、向って来るようだが、マルクス主義もどうやら一種の病気として取り扱われ始めたらしい。なぜなら、ここでもこの頃矢張治療主義(?)が、改悛主義が、流行するらしいからである。ただこの際、場合によって治療主義即監置主義になるという特色を注目しなければならないのである。
最近の新聞によると、七月末までの「転向」者は五百五十名、未決囚で三〇・三パーセント、既決囚で三五・七五パーセントに当るそうである。それはどうでもいいとして、転向の動機の分類が中々振っている。「民族的自覚によるもの」とか、「時局の重大性に反省せるもの」とか云ったような××××な動機や(流石に之はあまり多くない)、「家庭愛によるもの」とか「教誨指導によるもの」とかいう×××××なのを初めとして、色々尤もらしく挙げられているが、今問題になるのは、「××による反省者」未決一〇四名、既決二七名という項目である。
××と云っても併し何も×××生活だけを考えてはならない。それに先立つ非合法的で非衛生的な往々数カ月に及ぶ×××生活を、まず考えて貰わなければならないのだ。結局何でもないことで一月位は××される。
処分なら裁判を仰ぐことも出来なくないが(それも大抵間に合わないが)、××の連日蒸
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