いう点だけが只一つ心配なのである。それも、文部大臣がスポーツの世話を焼くだけの役目では、あまりに気の毒だと思う同情の心からなのである。
私は子供の頃、政教分離ということを聞いてなる程と思ったものであるが、更に宗教関係や教育取締は文部省で、神社関係や犯罪取締は内務省の所管だということを知って、その組織的な分類法に敬服したものだった。処がこの頃では、どうもこの点に就いて段々懐疑的になって来たようである。
何にせよ、教育の警察化[#「教育の警察化」に傍点]ということはあまり柄の良いものではない。例えば中学校以上の入学者全部を、片端から指紋を取ってやろうというようなある筋の最近の提案は、職業的サディストにとっては中々面白い痛快なイデーであるが、「社会風教」の上からは、あまり愉快なイデーではないようである。
三、墳墓発掘
四月二十六日の新聞を見ると、某医専教授が、人夫を使って鎌倉の百八矢倉という史跡を暴き、五輪の塔を窃取して、荷車にのせて持って帰って、自分の邸宅の置石にしていた、ということが出ている。之は中々風変りな面白い犯罪だなと思って見ていると、確かに大分風変りな犯罪であることが段々明らかになって来るようである。
第一専門学校の教授ともあろうものが、泥棒するということからが変っているのに、教授自身は一向それを大それた犯罪だとは思っていないらしい。その証拠には息子も一緒に連れて行ってやっているのである。之をハッキリと犯罪だとは思わないのに一応の原因がないでもない。之は元々骨董収集癖が病的に嵩じた結果らしいので、別に盗んだ五輪の塔を売って金に代えようという意志はないのだから。なる程他人の私有財産を勝手に商品交換過程に投げ込むという典型的な犯罪と一つではないし、又自分にとって衣食住に直接関係のある物資を盗んだという原始的な「泥棒」とも別である。それに盗んだ物品そのものが史蹟にぞくするもので、一般社会にとっても直接な不可欠なものではない。
社会は変なもので、ルンペンが林檎を一つ盗んだということは、ただ一つの林檎もルンペンにとって重大な意義があるという処からいつの間にか、その犯罪自身が重大なものに見做されるということになるのであるが、之に反してブルジョアのヒステリーマダムがお召を一反万引しても、一反位いのお召はマダム自身にとっては実はどうでも好かったという処から
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