を開き、戦争挑発出版物を積極的に取締ることになった。但し全面的な取締りは言論出版の圧迫となり、却って国民の理解力を稀薄にする恐れがあるという理由で、特殊のソヴィエトとかアメリカとかの国家を目標とする戦争挑発物の出版及び記事と当局の意図のように推定されそうなものや国民や列国を惑わせるような戦略戦術の出版及び記事とだけを、部分的に厳重に取締ることにしたそうである。軍人の政治理論や社会理論が世間人に取って迷惑至極であるように、世間の素人戦争、ジャーナリスト達の戦争論や戦略戦術論は、軍部に取ってさぞ有難迷惑だろう。だからお互いにバカな真似は止めようではないか。というのが、林陸相達の方針であるらしい。(折も折、文壇の荒木陸相を以て目されていた直木三十五氏が死んだ。おかげで帝国文芸院の成立やその大衆文芸班に相当する「日本国民協会」の発展などは、さし当り一寸心細くなって来たようである。但しそのお膳立てをする任務を某方面から委任されていると云われる松本警保局長は益々健在で、荒木や直木の損失を補って余りあるかも知れないのであるが。)
 政治家や評論家に云わせると、こういうような具合だから、日本の社会情勢は可なり自由主義の方向へ傾いて来たのだというのである。なる程例の一九三五、六年の危機とか、又非常時とか云う掛け声も、質問が出たり半畳が這入ったりしては気抜けがせざるを得ない。吾々は初め軍人達の号令に従って、わが国の対外政策、外交を景気づけるために非常時非常時という掛け声を掛けていた処、広田外相が出て来て云う処によると、こういう掛け声は実は広田外交にケチをつけることにしかならないらしい。荒木外交を実行するために登場して来たのが広田外相かと思ったら、荒木陸相は風邪を引いて了って、広田外相だけが健全なようである。そう考えて見るとどうも軍人の勢は衰えて、リベラリズムの世界が近づいて来たのかも知れないという気もするのだ。
 処が軍人の勢力をそんなに見縊ってはならないのである。軍人にも色々あって、現役は云うまでもなく問題ないとして、在郷軍人や青年団や青訓生其他の「壮丁」と呼ばれるものが都市や農村を通じて充満している事実を見逃してはなるまい。例えば、東京朝日新聞社の主催で陸軍省の後援による全国優良壮丁市町村の調査が最近発表されたが、調査の項目は徴兵成績、身長、体重、其他であって、要するに一種の身体検
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