ヘ新聞紙読者である。新聞現象はこの四つの要素の間の具体的な関係に基いて社会的機能を営む一つの社会現象なのである。――新聞紙プロパーの他に多くの補助新聞紙(例えば号外を別として週間朝日・サンデー毎日の類)もあるが之は新聞紙が含む広義の文芸欄(Feuilleton)の延長独立したものに過ぎない。又新聞社組織の外に付属的な組織や副次的な組織がある。通信社・広告取次店・販売取次店等々。又新聞記者と云っても社長・出資者・株主其他の出版資本家と記者とは区別されねばならず、記者の内にも顧問客員や専属記者や寄稿者や投稿者もある、がより大切なのは編集部員(探訪・論説委員・主筆・其他)と営業計画部員との区別である。後者は新聞社組織の経済的・資本主義的・物質的基礎に直接関係し、前者は之に観念的作用力を通って間接に関係する。ブルジョア新聞社組織が行う資本主義的新聞企業に於ても、その言論は必ずしも直接新聞社自身の経済的基礎に貢献しなくてもいい場合がある。同一資本系統の企業を利するとか、一般社会の資本家的利益を齎すとかすれば足りる場合が、決して少くはない。――読者は併し特別な要素である、と云うのは読者は新聞記者其他のように新聞社組織に組み入れられたものではなくて、一応之から独立した人的要素であるから。
 新聞紙の紙面は普通、政治欄・文芸欄・商業欄・広告欄に分類される(ビュヒャーによる――〔Karl Bu:cher〕, 1847−1930)。だがこれは、新聞紙の空間的分類であって、新聞現象の社会的機能による分類ではない。新聞現象は内容的に報道(Nachrichten)と文叢(Literatur)とに分類される(E・シュタイニッツアァー)。前者は時事性・現実行動性(actuality)を著しい特色とし、後者はこの点あまり顕著でない。これは報知的部面(Anzeigenteil)とテキスト的・編集的・部面(Texts−Redaktionsteil)との区別とも云われている。
 報道とは私信・廻文などと異り公共的なものを云い、或る一定の限られた読者でなく、一般的に不定な読者を想定するものを指す。併しその内でも、私的・個人的・市井的・私党的な興味に基くものと、公的・国家的・市民的・社会党派的な興味に基くものとを区別しなければならぬ。前者を私的報道、後者を公的報道と呼ぼう。だが又この報道は公私ともに、報道者の個人的な利害に直接立脚しないことを建前とする。そうでなければ報道は公平と真実との外見を失うからである。報道者自身の個人的利害に直接立脚する特殊な報道は広告と呼ばれている。広告も明らかに一種の報道=ニューズであるが、ニューズ・プロパーと異る点は、ニューズが読者に一種の読む義務を負わせるに反して、広告は読者の好意ある閲読を希望するということである。普通広告は有料のニューズであるという風に規定されているが、その区別は寧ろ今云った点から派生するものである。報道と広告とのニューズとしての差別と同一性は、之を云い表わす各種の言葉の内にも現われている。Intelligenz, Anzeige, Announcement はどれも広告の謂であるが、その言葉の本来の意味は寧ろ報道を指している。
 文叢とは第一に論説、解説及び注解を含み、第二に評論、批判及び紹介を含み、第三に文芸を含む。第一は主として教導の機能を、第二は主として評価の機能を、第三は主として娯楽(Unterhaltung)の機能を果す。無論この三つのもの夫々の間に、又三つの機能夫々の間に、一定の連関と移り行きがあるが、文叢を広く批評と呼ぶことが出来る。さてそこで、報道と広告との連関はすでに述べた通りであるが、報道乃至広告とこの批評との連関を述べることが必要である。実は報道それ自身がその意図と効果から云って一つの批評的機能を有っている。ニューズの選択、書き方、載せ方などは、すでに一定の批評的態度に基かざるを得ない。逆に批評記事が一つのニューズに他ならぬことは云うまでもない。又広告の本質は元来自己推薦にあるが、そのためには一定の自己評価を下して見せねばならぬ、云わば之は一種の自己批評であり、或いは少くともその形を取らねばならぬ。批評自身は逆に又、広告の機能を営む場合がある。夫は主に新聞社組織或いはその背景をなす一定の資本、或いは広く資本主義社会そのもののために、宣伝の役割を与えられた時などである。
 新聞現象の根本規定は時事性にあると云われている。時事的とは世界の刻々の歴史的運動に現実的に沿うた活動的な観点を意味する。時事性の内容は第一に日常性である。日々(刻々・年々・月々)条件を新たにする事物の動きに就いて、その日々の特殊性を指摘するためには、日常性の原則が必要である。之は超時間的な形而上学的原則の[#「形而上学的原則の
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