|1755)・ルソー等の政治思想を経てカントの『永遠平和のために』(Zum ewigen Frieden, ein philosophischer Entwurf, 1795)やフィヒテの『封鎖商業国家論』(Der geschlossene Handelsstaat[#「Handelsstaat」は底本では「Handelstaat」], 1800)に到るまで、社会哲学は著名の哲学の大部分を一貫している。特にヘーゲルはこの点で重大な位置を占めているので、そのブルジョア社会と国家の理念とに関する説は社会哲学の典型と見做されてよい。現代ではシュパン O. Spann(1878−1950)が全体性[#「全体性」に傍点]に基いた範疇論に立脚して全体主義的社会哲学を代表し、シェーラーは生命論的で且つ精神主義的な社会生活の形而上学を試みている。
 又社会哲学は歴史哲学と不離な関係に立っている。蓋し社会は現実には歴史的社会であり、人間の社会生活は取りも直さず人間の歴史に他ならぬからである。歴史哲学という言葉を最初に使ったと云われるヴォルテール Voltaire(1694−1778)の理念は、ヘルダーの人間史の哲学の理念となって今日に到るまで展開されているが、この系列に属する所謂「歴史哲学」は何れも同時に社会哲学の名に値いする。一方ヴィーコ G. B. Vico(1668−1744)は歴史哲学の始祖に数えられるが、其系統に属する現代の社会科学者には社会均衡論の代表者パレート V. Pareto(1848−1923)がいる。多少評論家風の歴史哲学的な社会哲学者を挙げるならばシュペングラー O. Spengler(1880−1936)が代表的である。なお歴史哲学を一般化して広く生の哲学者に及ぼし、又評論的な傾向を押し拡めて文学的な思想家に及ぶならば、今日ニーチェは社会生活の哲学にとって重大な地盤を提供すると見られている。
 歴史哲学に直接関係あるものは社会思想乃至広義に於ける社会主義である。デモクラシー・ファシズム・共産主義・無政府主義・科学的社会主義の主張乃至研究は、社会哲学の最も重大な且つ略※[#二の字点、1−2−22]《ほぼ》共通な内容をなす。カント主義に属する社会理想主義として、ナトルプやシュタムラー R. Stammler(1856−1938)の社会哲学があり、カント的マルクス主義(オーストリア・マルクス主義)にはアドラー M. Adler(1873−1937)やレーデラー E. Lederer(1882−1939)の社会哲学がある。クーノー H. Cunow(1862−1936)はラサール的な傾向を持ったマルクス主義的社会哲学者である。併し厳密に云えば、マルクス主義的社会理論たる唯物史観=史的唯物論は、決して歴史哲学ではなかったと同じに又決して社会哲学の名に適しない。現にそれは社会哲学や社会学から区別されて社会科学と呼ばれていることからもこれは明かである。併しその内部に最も優れた社会哲学的見地が潜んでいることは忘れてならぬ事実である。
 なお、政治学や社会学は云うまでもなく、経済学、特に古典経済学も亦一種の社会哲学から発生したことを忘れてはならぬ。ケネー F. Quesnay(1694−1774)もスミス(アダム)も社会に於ける人間の本性の研究から出発している。現代経済学者で社会哲学に親しいものとして例えばマクス・ウェーバー M. Weber(1864−1920)を挙げることが出来る。
 【教育的意義】  以上のように社会哲学なるもの乃至社会哲学的な要素は、特色ある殆ど凡ての社会理論の中核の一つをなしていると云っていい。したがって今教育が社会理論の一対象となる限り、あらゆる社会哲学が夫々教育に就ての一定のイデーを示唆することが当然である。プラトンによる哲人政治家の教育の理想(彼のアカデメイアやシラクサの学校やはこの理想の実現を目的とした)はその古典的な典型であろう。ルソーの自然主義的教育理論は勿論、彼の固有な社会文化理論にもとづいている。又例えばフーリエ F. M. C. Fourier(1772−1837)のコンミュニスト的ファランジュ phalange の試みは、幼稚園の起原の一つに数えられている等々。更にまた二十世紀の教育理論は社会学的・社会哲学的な基礎の上に立つことを特色としている。ナトルプの『社会的理想主義』やデューイの教育理論は今日の代表的な社会哲学的教育説と見做されている。社会学の成果を教育乃至教育学に適用した教育的社会学なども、元来社会哲学的観点に立っているが故に発生したものに他ならない。

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文献―L. Gumplowicz[#「L. Gumplowicz」は斜体], Sozialphilosop
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