驍烽フの内容をなす。
【社会科学の方法】 まず社会科学は社会をその歴史的運動に於て観察分析する。社会とは常に歴史的社会の謂でなくてはならぬ。この社会の歴史は併し、単に人類の文化の歴史として始まったのではなくて、自然自身の歴史的(自然史的・博物学的)発展の結果発生したものに他ならぬ。故に恰も自然科学者が自然の歴史を博物学的に研究するように、社会科学者は社会の歴史を自然史的に研究し得なければならぬ。こうして初めて、社会の認識は科学的となる(人類社会の自然史)。併しこのことはすでに、社会の歴史の唯物論的分析と弁証法的分析とを想定している。従来の非理論的な社会史は、歴史的現象の単なる発生消滅を羅列し乃至適当に区分するか、そうでなければ、終局に於てこれを人類の精神乃至観念の展開・発達・変遷の結果として説明する態度を抜け出なかったと云っていい。社会の自然史は之に反して、社会の歴史的展開を社会の現実的な物質的地盤から説明する。社会の物質的な発展が社会全般の歴史的発展の終局原因として発見される。ここに社会の自然史が唯物論[#「唯物論」に傍点]を分析方法とする所以がある。所が更に、社会を如何に自然史的に分析すると云っても、社会は云うまでもなく自然とは別である。社会は物質的自然の歴史的な物質的な発展であるが自然自身とは異った発展段階に属する。それ自身の発展がそれ自身とは異った新たな性質を生み出すという、事物の歴史的発展の事実が、一般に唯物論的な弁証法[#「弁証法」に傍点]なのである。そこで社会の自然史とは、社会の弁証法的発展を想定して初めて意味を持つことが出来る。社会の自然史の分析方法は又、だから弁証法(形式論理[#「形式論理」に傍点]に対す)でなくてはならぬ。
歴史的社会の唯物論的弁証法的分析方法が社会科学の一般的方法であるが、注意すべきはこの方法の出所自身が、他ならぬこの歴史的社会という存在そのものが物質的で弁証法的であるということにある点である。唯物論的弁証法的方法の強みの一つは、この方法自身が事物の物質的弁証法的性質の避くべからざる結果だということである。この方法の強みは而も、歴史的社会の社会科学的分析に際して最も判然と現われる。
【社会科学の内容】 社会科学的分析によって明かになる主な点は、第一に社会の活きた動的及び静的な構造である。社会科学によれば、歴史的社会の基礎であり従ってまた社会の歴史的発展の終局的な動力を含むものは社会の物質的な生産関係[#「生産関係」に傍点]である。これは社会に於ける物質的生産力[#「物質的生産力」に傍点]が一定社会に於て受け取る形式であって、普通経済機構と呼ばれるものに相当する。社会のこの現実的地盤の上に、社会のこの下部構造[#「下部構造」に傍点]の上に、上部構造[#「上部構造」に傍点]としてイデオロギー[#「イデオロギー」に傍点]=観念形態[#「観念形態」に傍点]が成立するのである(法律・政治・道徳・科学・哲学・芸術)。下部構造は上部構造との間に交互作用を営んで互いに規定し合うに拘らず、終局に於て下部構造が上部構造を規定する。以上は社会の静的構造であるが、この同じ社会構造が又社会の動的展開を惹き起す。物質的生産力は終局に於て個人乃至人間の意志とは独立に客観的に発達して行く必然性を有っているが、その発達の結果、この生産力が旧来の生産関係と矛盾に陥る。かくて社会の生産関係は生産力の発展の形態から、その桎梏へと逆転する。生産力の発展はこの桎梏を打開して新しい生産関係を自分に適した形式として造り出す。かくて社会の基礎構造は、矛盾と矛盾の克服との機構によって、必然的に変革される。これに従って、上部構造も亦変革されざるを得なくなる。これが社会の歴史的発展なるものに他ならぬ。
これに関係して注意すべき第二の点は、社会科学が社会の歴史的発展の必然的法則[#「必然的法則」に傍点]を与え得る唯一の社会理論だということである。尤もここで云う法則とは単なる自然法則とは異って社会の歴史的発展と共にそれ自身も亦発展し具体化して行く法則であり、そして必然的と云っても機械的な必然性ではなくて正しい偶然性を貫いて自らを活かして行く弁証法的な必然性のことをいう。更に之に関して第三の要点は、社会科学的な社会の歴史的発展の必然性の認識が、当然社会人の社会的行動・実践[#「実践」に傍点]の客観的科学的な有効な具体的指針を与え得るということである。ここで理論[#「理論」に傍点]と実践[#「実践」に傍点]とが不離の関係に立つ。実践のない処には歴史的社会はあり得ないから、歴史的社会の科学的認識は同時に実践の客観的な内容となるのは当然である。それ故社会科学は、無産者による社会革命、プロレタリアの独裁的支配という綱領にまで具体化される科学的社会
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