ばならぬ。科学的精神が如何に民衆大衆の文化全般の精神であるかが理解される。
 科学に於ける科学的精神の教育について、一貫した主張を旧くから持っているのは、小倉金之助博士の如き人である。氏は『数学教育の根本問題』を、数学専門家のための数学教育には求めずに、数学に於ける、又数学による、科学的精神の教育(実証的精神と歴史的認識の精神とされる)に求めた。『数学教育の根本問題』を初めとして、『数学教育史』、『数学史研究』、又最近の評論集である『科学的精神と数学教育』が、首尾一貫してこのことを主張している。科学的精神に対して専門家的矮小化に陥る危険を、警告することに終始しているとさえ云ってよい。――之は数学に於ける科学的精神だが、自然科学・更に社会科学・哲学・文化理論・に於ける科学的精神についても、同じに考えないわけには行かぬ。この精神は民衆の常識と良識との問題なのだ。だから社会的常識と良識とを往々にして欠かないではない科学的番頭達には、却って理解出来ないものでさえある。そのことを特に記憶しておかなければなるまい。

 さて、今日最も科学的精神を欠きがちであるのは、社会・文化・に関する学者と俗人と
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