教育はこの常識から云っても決して単に初等教育に限るのではなくて、文部省式に云うと、中等普通教育、高等普通教育、というようなものを含むのだが、併し今云うのはそれだけではない。事実中学でやる科学は高等学校の初歩的なものであり、高等学校のは大学でやる科学の予科的なものだという関係があるとすれば、所謂普通教育としての科学教育は、専門教育としての科学教育の、単に初歩的なものに過ぎないということにならざるを得ない。之は多少とも現実の科学教育の事情だと思う。
 普通教育としての科学教育と専門教育としての科学教育とが、言葉や表筆の上では勿論区別され得るような建前になっているとしても、その区別の本当の精神と、その区別の本質的な意義とは、必ずしも充分に注目されてはいないのではないかと思う。寧ろ両者はやや無造作に結びつけられ過ぎているようだ。専門的な学術の縮小版や省略版を授けることが、学術の普通教育だというような感がないとは云えない。この弊はすでに教育の玄人や素人にも拙劣な形で意識されているので、つめ込み主義がいかんとか、画一主義がいかんとか云う場合にここと無関係ではないし、知育偏重がいかんという場合、之を
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