凡ゆる人間に凡ゆる素質を要請することは無論出来ない相談だ。自然科学的直覚能力の秀でた生徒は、この科学的精神をば自然科学への興味の形で育てるのである。
博物学的な直覚とか、物理学的直覚とか、化学的な直覚とか、数学的直覚とか、という区別を便宜的に仮定してもいいだろう。読書的な理性と観察的な理性のタイプを区別してもいいだろう。とに角素質とその発達としての性向の区別がある。だがこの区別にも拘らず、一般に科学的精神の形成は、最も大切な科学教育なのである。大体に於て素質が専門を択ばせる、少なくとも成功した選択ではそうだ。だが今は専門としての科学の教育の話ではなくて、教養としての・素養としての・科学の教育の話だった。するとつまり、この科学的精神なるものは、所謂「科学」にだけ固有な精神ではなくて一切の事物に就いての科学的態度を意味するのであり、まして自然科学にだけ固有な精神ではない、という事になる。科学の広範な意味は所謂「科学」から一切の芸術的認識を含めての、認識[#「認識」に傍点]ということだ。科学的精神の訓練とは、要するに認識――実在の反映[#「実在の反映」に傍点]としての――の訓練のことでもい
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