技術へ行く問題
戸坂潤
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ラジウムの製造[#「製造」に傍点]がなければ
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一 何が目標か
初めに私は、少し大胆かも知れない独断をやって除けたいと思う。この独断には尤も自分なりの動機はあるのだから、その動機から説明してかかる方がいいかも知れない。エーヴ・キュリの『キュリ夫人伝』はずい分上手に書けてある伝記だと思うが、あの内で一等感動させられたのは、キュリがラジウム製造の特許権を獲得しようかどうしようか、と夫人に相談するくだりである。
夫人はしばらく考えてから、それは止めた方がいいでしょう、と云うのである。科学は万人のものなのだから、私達が之を私するのはいいことではない、という一見ごく公式的な理由からだ。
すると夫は、併しこの特許を取っておけば後々の研究費が十分出るから、結局之が最も社会のためになるのではないか、と考え考え、反駁する。キュリ夫人は、それでもやっぱり止めましょう、と云うので結局やめになる。
之は後になって夫人にとって都合の悪い結果になった。夫人は特許権
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