のであるから。
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* フッセルルはこう云っている、「最も広い意味に於ける個物的存在の、領域的に一定し得べき凡ゆる段階には、一つの Ontologie がぞくする。例えば物理的自然には Ontologie der Natur が、動物界には 〔Ontologie der Animalita:t〕 がぞくする、云々」(Ideen…, S. 112)。
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それでは空間概念の事態[#「事態」に傍点]の分析は何に向うのか。之に対するものは、空間概念の性格それ自身[#「性格それ自身」に傍点]の分析である。というのは、事態の分析は性格[#「性格」に傍点](従って之に基く動機)に従って行なわれた。性格に従って行なわれる分析はその限り性格の分析を結果する――空間概念の事態が分析されればそれだけ空間概念の性格が分析される以外の何物が起こるのでもないから。併し之はまだ、性格を性格として取り出して行なう分析ではない、性格は性格として――性格それ自身[#「性格それ自身」に傍点]――別に分析される必要があるのである。性格の分析によって事態の分析も(又之に先立った名辞[#「名辞」に傍点]の分析も)その基礎[#「基礎」に傍点]を得ることが出来る。
何が空間の性格であるか。
一般に性格に就いて少しばかり補う必要を認める。性格が多くの特徴――これは又、代表的なる性質である――を代表する処の優越な(par excellence)特徴であることを吾々は茲に知った。或るものは如何なる性質に依るよりも、まず第一に[#「まず第一に」に傍点]、何にもまして[#「何にもまして」に傍点]、その性格を以て考えられなければならない。性格によって他の性質は代表され、支配され、併呑される。性格は優越性[#「優越性」に傍点]を有つ。机は読み又は書くものとしてその性格を持ち、今朝の新聞は刊行物としてその性格を持つ。それにも拘らず、机は之に腰かけ得る性質を有ち、新聞はそれで物を包むことの出来る性質を持っている。その上で書くもの読むものであるという机の性格と机の他の性質とは少しも互いに排斥し合わない、却って机はその上で書き読むことの出来るべき性格を有つが故に、又その上に腰かけることも出来る性質を持つであろう。性格は他の諸性質を排斥するのではなくして、之を代表し、支配し、併呑する。それであればこそ机に腰かけることは誤りであり、その日の新聞を以て物を包むことは間違いであると云うことが意味を有つことになるのである。処が他方に於て机は腰かけ得る性質を持つが故に、一般に腰かけ得るものの内に列することが出来るであろう。腰掛ばかりではなく火鉢、書架、棚、など凡そ腰かけ得るものは、机と同じ同属として並ぶことが出来る。新聞紙は包み得るものとして風呂敷ばかりでなく、毛布、羽織、などと同列することが出来る。そればかりではない、机は木として新聞は紙として夫々の entities にぞくする。人々は之を否定しようとは思わない、それにも拘らず、机の性格は机であり、新聞の性格は新聞である。凡そ総てのものはこのようにして適当なる任意のものに還元[#「還元」に傍点]され得る。それにも拘らず還元されても性格の優越は失われない。還元性[#「還元性」に傍点]と優越性[#「優越性」に傍点]とは別である。吾々は念のために社会的な一例を引こう。国民皆兵であるならば軍人でない国民はないであろう、国民は凡て軍人に還元される、けれども総ての国民が軍人という性格を有つのではない。軍人を以て任じ得るものは特殊の地位の人々だけである。他の人々は還元性に於ては軍人であるが優越性に於ては軍人ではない。この場合還元性と優越性との混同は、事実一つの社会的誤謬として知られているであろう。次にこの意味に於て或るものに還元され得るということは、その或るものから構成[#「構成」に傍点]されているということではない。現に吾々の概念は確かに還元性を有っている、一切のものは概念に還元される、商品は商品概念[#「概念」に傍点]であり、某は某概念[#「概念」に傍点]である。然るに概念は構成性[#「構成性」に傍点]を持ってはならない筈であった。かくして構成性[#「構成性」に傍点]と還元性[#「還元性」に傍点]とも亦別である。処で次に、構成性を有つものは必ずそれに基いて優越性を有つ。構成的[#「構成的」に傍点]概念は現に論理的[#「論理的」に傍点]という性格を――優越性を有った。之に反して優越性を持つもの必ずしも構成性を有つとは限らない。というのは構成性が始めから問題となり得ない場合に於ても、――何となれば概念とか判断とか意識とかが問題となる特殊な場合に限って構成性は問題となることが出来る、――性格はなけ
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