Bロッツェも云っているように色の次元とは要するに一つの比喩であるに過ぎない。Farbengeometrie 或いは Tongeometrie と云われるものは勿論幾何学ではないのである。即ち幾何学の次元は幾何学に固有でなければならぬ。n次の多様ということは「n次に延長せる多様」ということである。然るに空間直観の次元とは正にこの延長そのものである。何となれば之によってのみ空間直観は他の直観から区別されて「存在」の範疇となることが出来るのであるから。それ故空間直観の次元が意味するものと幾何学の夫が意味するものとは同一でなければならぬ。次元は両者に共通である。ただ両者の差異は前者に於てはそれが三次元であり後者に於ては一般にn次元であるということである。さて併し次元そのものは数3に限定される理由はない。即ち3はnにまで次元の性質上拡張されなければならない。処が空間直観の三次元性はその点―線―面の全体的な体系に外ならぬ。それ故空間直観の三次元を幾何学的空間のn次元に拡張するためには空間直観の点―線―面の全体的な体系と次元そのものとを分離しなければならぬ。即ち全体的な体系が次元に加えている制限を取り去らなければならぬ。次元はかくすることによって始めて独立となり任意の次元が可能となる。之を云い換えればn次元に拡張するためには点―線―面の体系の全体性(Ganzheit)を否定しなければならない。然るに点―線―面体系の全体性は空間直観の性質に外ならない。従って之を否定するということは空間直観をば之に代るべき他のものによって置き換えることである。三次元がn次元に拡張されるために置き換えられるこのもの、それは明らかに幾何学である。処が置き換えられるものは点―線―面体系の全体性を否定するものである。即ち点―線―面の体系を部分として[#「部分として」に傍点]含むものでなければならぬ。即ち空間直観に於て現われる処の内容を含み且つ之に現われない内容をも含むものでなければならぬ。故に幾何学は空間直観に於て現われる内容を含み且つ之に現われない内容をも含まなければならぬ、という結果となる。射影幾何学は点―線―面の体系を拡張して之をn−空間(n−space, Veblen a. Young, Projective Geometry, Vol. I)にまで及ぼし得るのでなければならぬ。即ち空間直観――点―
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