の社会科学、オーストリア経済学派乃至数理経済学、H・T・テーヌの文芸史学、など)。反自然科学的な態度を標榜するブルジョア歴史学やブルジョア社会科学は、恰もこういうものを目標にし、之を打倒しようとすればこそ、その存在理由を有つのであった。
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* ブルジョア科学[#「ブルジョア科学」に傍点]という概念は多くのブルジョア学者自身が承認しない処のものである。例えばM・シェーラーの如き。だがこの概念の説明は一応 E. Untermann, Sciences and Revolution に委せてよい。マルクス・エンゲルスの著作の多くを通じてこの概念の意義の重大さは明らかである。
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自然科学が今日の科学全体に対して有つ代表権を、容認するにしても容認しないにしても、又はある制限と代用物とを条件としてしか容認しないにしても、とに角近代的学問に於ける自然科学の公然たる君臨は、一般的に承認された文化史上の根本想定だと見ていい。
さてこの自然科学の特徴に就いては、ありと凡ゆる説明が与えられている。例えば研究方法が精密であるとか数学が充分に応用され得るとか、又は法則を発見して事象の一般化を行い得るとか、というのが現在の「科学論」の代表的な諸見解である。特に科学論に就いて功績の少くない新カント学派の例を取れば、H・コーエンや、P・ナトルプや、E・カッシーラーが前者であり、W・ヴィンデルバントや、H・リッケルト等が後者であることは、広く知られている*。
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* H. Cohen, Logik der reinen Erkenntnis[#「Erkenntnis」は底本では「Erkentnis」]; P. Natorp, Die Grundlagen der exakten Wissenschaften; E. Cassirer, Substanzbegriff und Funktionsbegriff. ―― W. Windelband, 〔Pra:ludien〕; H. Rickert, Die Grenzen der naturwissenschaftlichen Begriffsbildung 其の他参照。――なお之に因んで次の文献を挙げておく必要がある。
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〔M. Frischeisen−Ko:hler〕, Wissenschaft und Wirklichkeit. ――P. Volkmann, Erkenntnistheoretische 〔Grundzu:ge〕 der Naturwissenschaften. ――J. Cohn, Voraussetzungen und Ziele des Erkennens. ――G. Heymans, Die Gesetze und Elemente des wissenschaftlichen Denkens.
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だが歴史的な根拠から見て一等重大な自然科学の特徴は、それが豊富で充分な実験[#「実験」に傍点]に立脚し、終局に於てこの実験から一切の理論を導き出すことが出来る、ということでなくてはならぬだろう。尤も実験というものが何であるかは簡単には片づかない問題であるが、それは別の機会に明らかにするとして、少くとも之が人間の認識に於ける最も実践的な手段にぞくするものの一つであることには異論があるまい。その意味に於て、観察[#「観察」に傍点]というものも実験のごく初歩の或いはごく低度のもので、従って実験の一つの契機だと見做していい。
実験は併し、正確に云えば決して自然科学だけに固有なものではない、従って之を自然科学にしかない特色だと云い切ることは出来ない。社会科学に於ても、自然科学の場合とは多少規定は別であるにしても、矢張り一種の実験の特色を具えた科学的操作は不可能ではないし、又必要でもあると考えられている*。だがこうした社会科学的実験の観念は、実は、それだけ社会科学を自然科学に近づけようとする努力そのものから動機しているのであったから、従って、実験が自然科学に特徴的な特色であることが、これによって却って益々確実になるわけである。
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* 社会科学、特に経済学に於て実験の可能と必要とを説いたものは E. Simiand である。拙著『現代哲学講話』の内「社会科学に於ける実験と統計」の項〔本全集第三巻所収〕参照。
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観察と実験とは併し、実は何も近世自然科学と共に始まったものではない。エジプトの医学や天文学や幾何学も、バビロンの星学も、観察と実験との所産以外の何物でもあり得なかっ
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