に次ぐものは生産関係[#「生産関係」に傍点]による自然科学の制約である。生産力の技術性(特にその労働手段の体系)の内に一部分は数えることの出来るだろう交通関係[#「交通関係」に傍点]が、ここにまず第一の規定者となって現われる。ダーウィンのビーグル号による航海はすでに有名である。船舶・航空機・其の他の交通手段の発達による新しい科学上の探索は、従来到底近づき得なかった研究上の材料を提供する(極地・高層上空・奥地・其の他の探険跋渉などによって)。交通手段による交通関係は、自然科学にとっては夫自身実験[#「実験」に傍点]としての意義さえ持っているのである。
 戦争[#「戦争」に傍点]は(之は今日では資本主義の諸矛盾の一時的な強力的な解決法として大規模に愛用されるのであるが、その点は今仮に抜きにして)、一方に於て自然科学(但し無論自然科学に限らず一般に人類文化がそうであるが)のための経済的・社会的・人的条件を根本的に破壊するにも拘らず、特に自然科学に就いては、他の方面に於ては却って之を促進する最も有力な要因の一つになっている。このことは、注目されねばならぬ。戦争準備は自然科学に技術学上の膨大な切迫した要求を課し、戦争の実行は自然科学の一種の実験としてさえ、稀に見る大規模な又特有な性質を有っている。無論こうした要求と与件とによる自然科学の発達は、科学の健全な一般的[#「一般的」に傍点]発達を根本的に犠牲にして初めて得られる「発達」なのだから、つまりはそれだけ自然科学の不具的発達(?)であり、現に之によって、社会の大衆の日常生活にとって切実な技術学上の要求は、殆んど完全に蹂躙されて了う。にも拘らず之によって、自然科学が局部的にヒステリカルにでも「発達」するという事実は認めなくてはならぬ*。
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* こう云う点を考慮に入れて云うならば、フランスの技術学的基礎を置いたものは軍需技術学を獲得すべくイギリスの技術を移植した砲兵将校ナポレオンだと云うことが出来る。ここからフランスに於ける(否世界に於ける)数学・力学・物理学の目ざましい発達が起こった。――明治初年の日本に於ける西洋式数学者や物理学者の多くは、海軍軍人だったと云われている。
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 だが今日社会の生産関係は、世界の六分の五の面積に於ては、云うまでもなく資本制組織であ
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