られない。この点に就いては現代の科学的見方とカントの思想との関係に多くの興味を繋ぐことは出来ぬと思われる。たとえカントの一般的考え方にとってこの問題が重大であるにしても之を時間空間の問題に於てのように精細に取り扱う理由は見出せないと思うものである。
自然科学的実在論的考え方と哲学的批判的考え方とがあるとすればこの対立が学の発達の暁に於て止揚されるという望みは少いであろう。前者は後者なくしても少くとも自然科学を実際に満足せしめ得るのであるから。併し実際上の問題を離れて認識論的見方に立つ限り両者の対立を止揚する事が吾々の願いでなければならぬ。私はこの論文に於て之を試みたと云うことも出来るであろう。分裂しがちな人間の認識と研究の総体を不離の一者に結び付けた人の尤なる者、カントを記念する日こそこの試みに最も応しくはないであろうか。
[#地から1字上げ](一九二四・一一・七)
底本:「戸坂潤全集 第一巻」勁草書房
1966(昭和41)年5月25日第1刷発行
1967(昭和42)年5月15日第3刷発行
初出:「哲学研究 第九巻第一〇五号」
1924(大正13)年11月7日
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