実としての虚偽から――理想としての真理からではない――吾々は今出発する。吾々は真理に関する問題を却って、虚偽に就いての問題として意識する。
 人々は愛すべき又哀れむべき、同情すべき又悪むべき虚偽に於て生きている。吾々は今、何か宗教的な意識に立ってそう云うのでは必ずしもない。そうではなくして正に理論的[#「理論的」に傍点]乃至論理的[#「論理的」に傍点]な意識に立って、愛すべき又憐むべき、同情すべき又悪むべき虚偽を事実眼にする、と云うのである。

 人々は、誤謬[#「誤謬」に傍点]と虚偽[#「虚偽」に傍点]とを区別して次のように云うかも知れない。誤謬は無意識の内に犯した誤りであり、之に反して虚偽とは意識して犯した誤りである、と。誤謬と知りながら之を訂正せず又は故意に真理を抂げることが虚偽であると考えられているであろう。誤謬は誤謬と気付くことによって無論直ちに消滅するのが健全な場合である。併し独り誤謬ばかりではなく、虚偽であっても、このような――意識的誤りとしての――虚偽は、実に容易に的確に虚偽として露顕する、もしくは自らの虚偽自身に飽いて虚言者は自発的に実を吐くことが出来るであろう。何故
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