題[#「突発的問題」に傍点]と既成的問題[#「既成的問題」に傍点]とのこの区別――そして前者は後者を優越する――を用いて、問題[#「問題」に傍点]と立場[#「立場」に傍点]との関係を決定することが出来る*。
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* 今仮にタルドの思想を借りるならば、問題――問題の解決もそうであるが――は発明[#「発明」に傍点]され次で模倣[#「模倣」に傍点]される。前の場合が突発的問題に、後の場合が既成的問題に、相当するであろう。但し吾々にとっては、問題が単に個人的に、非歴史的に発明されるのであっては、元来それは、問題ではあり得なかった筈である。問題の発見は歴史社会的必然によって規定されるべきであった(G. Tarde, Les lois de l'imitation(1921)p. XIII 参照)。
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 既成的問題と突発的問題・伝統的な問題と独創的な問題、との区別を吾々は、立場を経た問題[#「立場を経た問題」に傍点]と立場を経ない問題[#「立場を経ない問題」に傍点]との区別として与えることが出来る。歴史の上に於て、或る一定の立場に立つ理論――何となればどのような理論も凡て何かの立場に立ち又はやがて立つのである――を通過して初めて発生する諸問題は、まず初めに歴史社会的に或る理論が存在し、この理論に基いて、例えばそれの解釈又は理解として、歴史的に発生すべく初めて動機づけられたものに外ならない。尤も与えられた立場に立った既成のこの理論も、その発生期に於ては或る一つの問題によって動機づけられたのであり、そしてこの動機が成り立った当時にあっては、その問題も独創的に見出されたのではあったであろう、けれども今云った諸問題は、この初め独創的であった一つの問題が既に一定の理論を産み、その理論的整合――それが立場であった――を経て、遂に与えられた問題となった暁に、之から惹き出された諸問題であるのである。「先天的総合判断は如何にして可能なりや」という問題が、仮にカントの独創的な問題であったとすれば、この問題[#「問題」に傍点]は例えば批判主義と呼ばれる立場[#「立場」に傍点]を経て、一つの与えられたる問題となり(「カントへ帰れ」)、この問題から多くのカント学派的問題が惹き出される。対象の認識と認識の対象との結び付け、価値と作用との関係等々。カントの突発的問題は新カント学派の既成的問題へ転化したと云ったならば人々はその言葉を許さないであろうか(但し問題の内容的価値がそれだけ減じたと云うのではない)。新カント学派という名称それ自身がそれを物語っている。エピゴーネンテュームの問題がどのような意味に於ても独創的でない、などと云うのではない。優れたるカント学徒によって独断的にではなく批判的に、そのまま受け取ったのではなくして多くのものから特に態々選出されたものである限り、この諸問題は充分に独創的であったであろう。ただ結局それがカントから、カントによって与えられた既成的なる問題の比較的単線的な攪拌乃至蒸溜から、生じたことに重心を有つ点には変りがない。カントを超越する(独創的である)ことは要するにカントを理解する(カント的問題を伝承する)ことに外ならなかった。この点に於て突発的問題では到底ないと云うのである。さて突発的問題から既成的問題へのこの転化を、転化として、即ち異った二項の間の一定の関係として、意識せしめる媒介は、恰もカント的立場[#「立場」に傍点]でなければならなかった。かくてカント学派的問題[#「問題」に傍点]――それは既成的問題[#「既成的問題」に傍点]の代表者であった――はカント的立場[#「立場」に傍点]から動機づけられる。故に一般に、既成的問題とは立場を経た問題[#「立場を経た問題」に傍点]を意味する。逆に突発的問題とは立場を経ない問題を意味するわけである。
 どのような問題も立場に立ち又はやがて立つべきだと前に述べたが、立場を経ない問題という概念[#「概念」は底本では「既念」]は之と矛盾するではないか、と人々は問うかも知れない。併し立場に立つ[#「立つ」に傍点]ことと立場を経る[#「経る」に傍点]こととは全く別である。前者は歴史的規定とは無関係に、理論的整合に立脚することであり、之に反して後者は、歴史的経過を意味する。立場――理論的整合――は超歴史的であるが、問題――それは一般に立場を動機づける歴史的動機であった――が歴史的にこの超歴史的なる立場を経、又は経ない、というのが今の場合の区別であった。
 吾々がかく説明するのに拘らず、どうあっても、逆に問題が立場から出発[#「出発」に傍点]する――立脚[#「立脚」に傍点]するだけではなくて――のであると思える人々があるならば、その人々の所謂立場なる
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