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[#地から9字上げ]京都
[#地から1字上げ]戸坂潤
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「性格」概念の理論的使命
――一つの計画に就いて――
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性格[#「性格」に傍点]の概念は個性[#「個性」に傍点]の夫と似ているかのように見えるであろう、併し二つは全くその成立を異にした二つの概念である。初めにこのことを決めてかかろう。
吾々が欲すると否とに関らず現に吾々が相続している理論的遺産に於て、最も遍在し最も有力な根本概念は、第一に普遍者[#「普遍者」に傍点]の概念であろう。蓋し一般に理論の構造を形式的に――何か論理的[#「論理的」に傍点]に――見るならば、この概念が中心的な勢力を占めることは当然である。というのは理論の一切の内容はただ普遍者と関係することによってのみ論理的であり得るのである。理論[#「理論」に傍点]の実際的な方法の上での順序は何であるとしても、論理[#「論理」に傍点]の秩序から云うならば、まず第一に普遍者が掲げられ、之から普遍者ならぬものが引き出される[#「引き出される」に傍点]、という形式が具わっている。普遍者に対する普遍者ならぬもの、之は形式的に――何か論理的に――特殊者[#「特殊者」に傍点]乃至個別者[#「個別者」に傍点]である*。特殊者乃至個別者は、理論的遺産の形式から見て、第二に有力な根本概念であろう。併し特殊者乃至個別者は如何にして普遍者から引き出される[#「引き出される」に傍点]か。
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* 人々はすぐ様ヘーゲルを連想してはならない。ヘーゲルの論理学は、従ってその普遍者と特殊乃至個別者は吾々にとって、より根本的な特別の関心を要求する。
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弁証法によるか演繹法によるか、それとも問題提出の仕方を全く逆にして、帰納法によるか、などを決めようとするのではない。そのような方法[#「方法」に傍点]は、論理に関する理論の又は単に理論の、手続きに属するから、前に示された通り、今の問題とは関係がない。そうではなくして、論理[#「論理」に傍点]の――理論[#「理論」に傍点]のではない――秩序に於て、普遍者から特殊者乃至個別者がどのようにして引き出されるか、を吾々は問うている。之を引き出す機能をもつ媒介者は個別化原理[#「個別化原理」に傍点]に外ならない*。普遍者はそれ自身が個別化――之に加え又は之から差し引く――されることによって特殊者乃至個別者となる、と云うのである。個別化が目的とする終点は個物又はそれがもつ個性[#「個性」に傍点]と呼ばれる。個物[#「個物」に傍点](個性)の概念は、第三の根本概念として普遍者に対して反対的に働きつつ、従来の理論一般を形式的に支配しているであろう。
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* 個別化原理が時間であるとか空間であるとかは今は顧みない。之を形式的に理解すべきである。例えばドゥンス・スコトゥスのそれ。
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論理家とも呼ばれるべき傾向の人々にとっては普遍者が、之に反して所謂生命哲学者達にとっては個性が、尊敬すべく愛着すべき根本概念であるかのように見える。前者にとっては普遍者は疑うべからざる課題であり、後者にとっては個性が凡ての問題の解決を約束する合言葉であるかのように見える。蓋し両者は理論に於ける好話柄であるように見える。或る人々は如何なる思想家の思想に就いても普遍者を、他の人々は如何なる思想家の思想に就いても個性を、専らテーマとしようと欲する。かくして例えばプラトンは普遍者の、アリストテレスは個性の、宗家であるかのように解釈せられる、等々。この場合、普遍者は個性に関係づけられ、又個性は普遍者に関係づけられ、そして、ただそうしてのみ人々の問題となるのである。特に、個性は、ただ個性と普遍者との関係に於てのみ、問われ得るのである。個性概念は従って常に個別化原理と共に――普遍者への関係に於て――理解されなければならないものである。
個別化原理が事実、時間乃至空間として与えられ得たことを吾々は注意しよう。この場合時間乃至空間を一般的に云うならば、観念的であるにせよ現実的であるにせよ何か一般に外延的なるものにぞくすることを、夫は意味するに外ならない。この外延的なるもの――それは連続であるが――の上に於て、即ち之を一つの原理として、限定[#「限定」に傍点]されたものが、恰も個物(個性)の最初の規定を云い表わす。この場合個物(個性)は連続的なる外延者の限定として、限界[#「限界」に傍点]を有つものとして、現われる。個物はこの限界によって他の個物から区別[#「区別」に傍点]せられ、この限界に於て他の個物に連続[#「連続」に傍点]して
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