とも論理は――他のものは暫く之を措き――政治的性格を有つのであった。真理と虚偽との価値関係の一定形態が、事実、歴史社会的必然性によって決定され得るのであった*。歴史が一定の論理的価値をして論理的価値たらしめるのである。
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* 論理が之以外の仕方によって歴史社会的に制約される点に就いては、他の機会に一般的に之を取り扱うであろう。
[#ここで字下げ終わり]
もし吾々の結論を一言で尽すならばこうである。歴史社会的存在[#「歴史社会的存在」に傍点]の弁証法的[#「弁証法的」に傍点]構造が、性格的論理[#「性格的論理」に傍点]の論理形態[#「論理形態」に傍点]へ反映するのである、と*。蓋し性格的論理とは元来、歴史社会的存在の歴史的現段階によって――政治的に――制約されてあるべき一つの――代表的な――論理典型の謂であったであろう。
[#ここから2字下げ、折り返して3字下げ]
* 歴史社会的存在の弁証法的構造が、他の仕方に於て論理へ反映する点に就いては、他の機会に譲ろう。
[#ここで字下げ終わり]
最後に一項を付録する。もし人々が一定の理論の真偽に敏感でありたいならば、之と他の諸理論――卓越した又は愚劣な――との連帯[#「連帯」に傍点]に注意することが望ましい。個人がその連帯を自覚するとしないとに拘わることなく、如何なる思想も、歴史社会的意味[#「歴史社会的意味」に傍点]に於て、或る一定の諸思想と連帯関係にあるのである。之は論理と存在との連帯性から必然であったであろう。蓋し論理の代表的なるものは性格的論理であったし、存在の優越なるものは歴史社会的存在であった。人々は従って、自己の思想を所有してその理論を構成することによって、常に、連帯者たる他の諸思想への歴史社会的責任を担う。論理が政治的性格を有つ所以はここにも明らかである。そしてみずからの理論がどのような一定の諸理論と連帯であるかを決めるに役立つ第一の標準こそ、恰も、如何なる問題[#「問題」に傍点]を有つか、である。
[#改段]
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[#ここから大見出し]
無意識的虚偽
――この文章は、「論理の政治的性格」の名の下に書かれた事柄をその半面から、そしてより簡単に、取り扱ったものである――
[#ここで大見出し終わり]
[#ここで字下げ終わり]
虚偽という概念と真理という概念とは、単に概念としては夫々独立な概念である。虚偽はあくまで真理ではなく、真理はあくまで虚偽ではない。併し実は、単なる概念としての虚偽、虚偽それ自体、というものは存在しない。存在するものは、一定の内容規定を持った限りの虚偽な或るもの[#「或るもの」に傍点]――虚偽な主張・学説・報告・等々、――だけである。真理も之と同じく、真理という性質を有つ或るもの[#「或るもの」に傍点]としてしか存在しない。さて虚偽な或るものは、虚偽それ自体というようなものとは異って、時としては、真理である処のものに成る[#「成る」に傍点]ことが出来、そして同じく真理であるものは時として、虚偽であるものとなる[#「なる」に傍点]ことが出来る、という事実は注目に値する。前に真理と思われたものが、後になって虚偽として見出され、後に真理として意識されたものも、以前には虚偽と考えられていた、ということは往々であるだろう。
従って真理も虚偽も、夫々の又相互の、歴史的運動に於てしか、実質的に語られることは出来ない。それ故、真理を虚偽から独立に、それから引き離して、語る権利を人々は有たないのである。処で、虚偽という言葉が、真理という言葉の存在を俟って初めて、行使される理由を見出すであろうのに、逆に、真理という言葉は必ずしも虚偽という言葉の存在を仮定しないでも用いられるから、というのは、虚偽は真理の標準を脱することによって初めて虚偽と名づけられるのだから、それであるから一般に、虚偽というものは真理というものよりも、次元が一つ先に進んでいると云って好いであろう。真理を有つものが仮に神であるとするならば、神が一歩次元を進めて、人間の世界にまで堕ちた時、初めて人間的虚偽が成り立つのである。今、神を理想[#「理想」に傍点]とすれば人間的世界は現実[#「現実」に傍点]に相当するだろう。そこで真理を理想と等置すれば虚偽は正に現実と等置されるべきである。処が理想と呼ばれるものはただ現実にとってのみ欲求の対象であることが出来る。理想を追求することは現実から出発すること以外に自らの動機をもつものではない。もし現実の内に理想への鞭がないならば、現実の内で現実的に生きている吾々人間にとって、理想は一体どこから来る縁があるのか。現実から出発する外はないということは凡そ人間的存在の根本的規定であるであろう。この現
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