あろうと――を特に注目することによって、その事物の理論的乃至実際的な処理を進めることが出来ると見られる時、その性質は顕著なるものとして見られる。であるからどの性質が顕著であるかは実は、事物それ自身に固有な作用範囲の配分ではなくして、その事物が人々によって理論的にか実際的にか取り扱われ得る通路を媒介とする勢力の消長でなければならないのである。事物の無限の諸性質は之を取り扱う通路に於て、顕著の秩序に並列される。さて顕著なる性質Aは無論、顕著ならぬ性質Bとは別でなければならない。併しそれにも拘らずAはBを――又Bと同じ資格をもつCD……を――代表[#「代表」に傍点]することが出来る。もし事物を言葉通りに具体的に定立しなければならないとすれば、AはあくまでBとは性質を異にする筈であったから、AがBを代表するということは許されないわけであろう。それ故之が許される以上茲に事物の抽象が成り立っているのである。処が事物を抽象することこそ具象的な事物を把握する唯一の途であるであろう。事物の把握を顧みずに、即ち事物への通路を顧みずに、事物そのものを決定し得るならば、抽象しないことこそ具体的であるであろう。処が実はこのような具体的事物は人々がそれへ通達する通路――方法[#「方法」に傍点]――から切り離されている点に於て却って方法的には抽象的であるのである。事物を抽象することこそ具体的な方法である。それ故AがBを代表し得るのは人々が事物を抽象するからであり、そして人々はこの抽象によってこの事物を取り扱う具体的な方法を得ることが出来るのである。代表[#「代表」に傍点]の概念は常に方法[#「方法」に傍点]の概念から要求される。自己自身に安ろうている事物――このような概念は元来哲学的作業仮説でしかない――に於ては顕著なる性質Aがそうでない性質BC……と相隣りして席を占めていると思い做される、之に反して通路に於て把握された事物――人々はかくしてのみ事物を理論し又之を実際的にとり扱う方法[#「方法」に傍点]を得る――に於てはAはBC……を代表し得なければならない。事物の性質AがBC……を代表する時、顕著なるこの性質Aはその事物の性格[#「性格」に傍点]となるのである。代表は方法から要求された。代表者である処の性格はそれ故方法的[#「方法的」に傍点]規定を有つ。――性格はこの意味に於て通路を用意してい
前へ 次へ
全134ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
戸坂 潤 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング