どに期限迫りて、果てはわが勤むる官署にすら督促のはがきを送らるる始末となりたれば、今はやむなくあたかも帰朝せる武男を説き動かし、この三千円を借り得てかの三千円を償い、武男の金をもって武男の名を贖《あがな》わんと欲せしなり。さきに武男を訪《と》いたれどおりあしく得逢《えあ》わず、その後二三日職務上の要を帯びて他行しつれば、いまだ高利貸のすでに武男が家に向かいしを知らざるなりき。
山木はうなずき、ベルを鳴らして朱肉の盒《いれもの》を取り寄せ、ひと通り証書に目を通して、ふところより実印取り出《い》でつつ保証人なるわが名の下に捺《お》しぬ。そを取り上げて、千々岩は武男の前に差し置き、
「じゃ、君、証書はここにあるから――で、金はいつ受け取れるかね」
「金はここに持っている」
「ここに?――戯談《じょうだん》はよしたまえ」
「持っている。――では、参千円、確かに渡した」
懐中より一通の紙に包みたるもの取り出《い》でて、千々岩が前に投げつけつ。
打ち驚きつつ拾い上げ、おしひらきたる千々岩の顔はたちまち紅《くれない》になり、また蒼《あお》くなりつ。きびしく歯を食いしばりぬ。彼はいまだ高
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