い、とわたしは思うが。なあ、田崎|君《さん》」
 田崎は打ち案じ顔に「旦那はあの通り正直《まっすぐ》なお方だから、よし御隠居の方がわるいにもしろ、自分の仕打ちもよくなかったとそう思っていなさる様子でね。それに今度わたしがお見舞に行ったンでまあ御隠居のお心も通ったというものだから、仲直りも何もありやしないが、しかし――」
 「戦争中《いくささなか》の縁談もおかしいが、とにかく早く奥様を迎《よ》びなさるのだね。どうです、旦那は御隠居と仲直りはしても、やっぱり浪子さんは忘れなさるまいか。若い者は最初のうちはよく強情を張るが、しかし新しい人が来て見るとやはりかわゆくなるものでね」
 「いやそのことは御隠居も考えておいでなさるようだが、しかし――」
 「むずかしかろうというのかね」
 「さあ、旦那があんな一途《いちず》な方《かた》だから、そこはどうとも」
 「しかしお家のため、旦那のためだから、なあ田崎|君《さん》」
 話はしばし途切れつ。二階には演説や終わりつらん、拍手の音盛んに聞こゆ。障子の夕日やや薄れて、ラッパの響《おと》耳に冷ややかなり。
 山木は杯を清めて、あらためて田崎にさしつつ
 「時に田崎|君《さん》、娘がお世話になっているが、困ったやつで、どうです、御隠居のお気には入りますまいな」
 浪子が去られしより、一月あまりたちて、山木は親しく川島|未亡人《いんきょ》の薫陶を受けさすべく行儀見習いの名をもって、娘お豊《とよ》を川島家に入れ置きしなりき。
 田崎はほほえみぬ。何か思い出《い》でたるなるべし。

     二の三

 田崎はほえみぬ。川島未亡人は眉《まゆ》をひそめしなり。
 武男が憤然席をけ立てて去りしかの日、母はこの子の後ろ影《すがた》をにらみつつ叫びぬ。
 「不孝者めが! どうでも勝手にすッがええ」
 母は武男が常によく孝にして、わが意を迎うるに踟※[#「※」は「足+厨」、第3水準1−92−39、164−7]《ちちゅ》せざるを知りぬ。知れるがゆえに、その浪子に対するの愛もとより浅きにあらざるを知りつつも、その両立するあたわざる場合には、一も二もなくかの愛をすててこの孝を取るならんと思えり。思えるがゆえに、その仕打ちのわれながらむしろ果断に過ぐるを思わざるにあらざりしも、なお家のため武男のためと謂《い》いつつ、独断をもて浪子を離別せるなり。武男が憤りの意
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