という事は定《き》まらないのですよ。お土産《みや》があるなンぞ書いてありましたわ」
 「そう? おそい――ねエ――もう――もう何時? 二時だ、ね!」
 「伯母|様《さん》、何をそんなにそわそわしておいでなさるの? ごゆっくりなさいな。お千鶴《ちず》さんは?」
 「あ、よろしくッて、ね」言いつついくが持《も》て来し茶を受け取りしまま、飲みもやらず沈吟《うちあん》じつ。
 「どうぞごゆるりと遊ばせ。――奥様、ちょいとお肴《さかな》を見てまいりますから」
 「あ、そうしておくれな」
 伯母は打ち驚きたるように浪子の顔をちょっと見て、また目をそらしつつ
 「およしな。今日はゆっくりされないよ。浪さん――迎えに来たよ」
 「エ? 迎え?」
 「あ、おとうさまが、病気の事で医師《おいしゃ》と少し相談もあるからちょいと来るようにッてね、――番町の方でも――承知だから」
 「相談? 何でしょう」
 「――病気の件《こと》ですよ、それからまた――おとうさんも久しく会わンからッてね」
 「そうですの?」
 浪子は怪訝《けげん》な顔。いくも不審議《ふしぎ》に思える様子。
 「でも今夜《こんばん》はお泊まり遊ばすンでございましょう?」
 「いいえね、あちでも――医師《いしゃ》も待ってたし、暮れないうちがいいから、すぐ今度の汽車で、ね」
 「へエー!」
 姥《ばあ》は驚きたるなり。浪子も腑《ふ》に落ちぬ事はあれど、言うは伯母なり、呼ぶは父なり、姑《しゅうと》は承知の上ともいえば、ともかくもいわるるままに用意をば整えつ。
 「伯母様何を考え込んでいらッしゃるの? ――看護婦は行かなくもいいでしょうね、すぐ帰るのでしょうから」
 伯母は起《た》ちて浪子の帯を直し襟《えり》をそろえつつ「連れておいでなさいね、不自由ですよ」
       *
 四時ごろには用意成りて、三|挺《ちょう》の車門に待ちぬ。浪子は風通御召《ふうつうおめし》の単衣《ひとえ》に、御納戸色繻珍《おなんどいろしゅちん》の丸帯して、髪は揚巻《あげまき》に山梔《くちなし》の花一輪、革色《かわいろ》の洋傘《かさ》右手《めて》につき、漏れ出《い》づるせきを白綾《しろあや》のハンカチにおさえながら、
 「ばあや、ちょっと行って来るよ。あああ、久しぶりに帰京《かえ》るのね。――それから、あの――お単衣《ひとえ》ね、もすこしだけども――あ、いい
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