さむし》温泉滯留。
背後《うしろ》を青森行の汽車が通る。枕の下で、陸奧灣《むつわん》の緑玉潮《りよくぎよくてう》がぴた/\言《ものい》ふ。西には青森の人煙|指《ゆびさ》す可く、其|背《うしろ》に津輕富士の岩木《いはき》山が小さく見えて居る。
青森から藝妓連《げいしやづれ》の遊客が歌うて曰く、一夜添うてもチマはチマ。
五歳《いつゝ》の鶴子初めて鴎を見て曰く、阿母《おかあさん》、白い烏が飛んで居るわねえ。
旅泊のつれ/″\に、濱から拾うて來た小石で、子供一人|成人《おとな》二人でおはじきをする。余が十歳の夏、父母に伴はれて舟で薩摩境の祖父を見舞に往つた時、唯《たつた》二十五里の海上を、風が惡くて天草の島に彼此十日も舟がかりした。昔話も聞き盡し、永い日を暮らしかねて、六十近い父と、五十近い母と、十歳の自分で、小石を拾うておはじきをした。今日不器用な手に小石を數へつゝ、不圖其事を思ひ出した。
海岸を歩けば、帆立貝の殼が山の如く積んである。淺蟲で食つたものの中で、帆立貝の柱の天麩羅はうまいものであつた。海濱隨處に※[#「王+攵」、第3水準1−87−88]瑰《まいくわい》の花が紫に咲き亂
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