《ゆうべ》の淋しさが人少なの新開町を押かぶせる様に四方から包んで来る。二《ふた》たび川を渡って、早々宿に帰る。町の真中《まんなか》を乗馬の男が野の方から駈《かけ》を追うて帰って来る。馬蹄《ばてい》の音が名寄中《なよろじゅう》に響き渡る。
宿の主人は讃岐《さぬき》の人で、晩食《ばんめし》の給仕に出た女中は愛知の者であった。隣室《となりま》には、先刻《さっき》馬を頼んで居た北見の農場に帰る男が、客と碁をうって居る。按摩《あんま》の笛が大道を流して通る。
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春光台
明治三十六年の夏、余は旭川まで一夜泊《いちやどまり》の飛脚旅行《ひきゃくりょこう》に来た。其時の旭川は、今の名寄よりも淋しい位の町であった。降りしきる雨の中を車で近文《ちかぶみ》に往って、土産話《みやげばなし》にアイヌの老酋《ろうしゅう》の家を訪うて、イタヤのマキリなぞ買って帰った。余は今車の上から見廻《みまわ》して、当年のわびしい記憶を喚起《よびおこ》そうとしたが、明治四十三年の旭川から七年前の旭川を見出すことは成功しなかった。
余等は市街を出ぬけ、石狩川を渡り、近文のアイヌ部落を遠目に見て、
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