はじめて六年、九十度は今日が初である。戸と云う戸、障子と云う障子、窓と云う窓を残らず開放《あけはな》し、母屋《おもや》は仕切の唐紙《からかみ》障子《しょうじ》を一切取払うて、六畳二室板の間ぶっ通しの一間《ひとま》にした。飲むと汗《あせ》になると知りつゝ、たまりかねて冷《つめ》たい麦湯を飲む、サイダアを飲む。飲む片端《かたはし》からぼろ/\汗になって流れる。犬のデカもピンも、猫のトラも、樫の木蔭《こかげ》にぐったり寝て居た。
 あまり暑いから髪《かみ》でも苅ろうかと、座敷の縁に胡踞《あぐら》かく。バリカンが駄目なので、剪《はさみ》で細君が三分に苅ってくれた。今朝苅った芝が、最早枯れて白く乾《かわ》いて居る。北海道の牧場の様ですね、と細君が曰う。主人《あるじ》は芝を苅り、妻は主人の髪を苅る。芝の心は知らぬが主人は好い心地になった。
 建具《たてぐ》取払って食堂が濶《ひろ》くなった上に、風が立ったので、晩餐の卓《たく》は涼《すず》しかった。飯を食いながら、唯《と》見《み》ると、夕日の残る葭簀《よしず》の二枚屏風に南天の黒い影が躍《おど》って居る。而《そう》して其葭簀を透《す》かして大きな芭蕉
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