て居た。正午の頃までは、裏の櫟林《くぬぎばやし》で吠《ほ》えたりして居た。何時の間に甲州街道に遊びに往って無惨《むざん》の最後《さいご》を遂《と》げたのか。
 尤も彼は此頃ひどく弱って居た。彼は年来ピンの押入婿《おしいりむこ》であったが、昨秋新に村人の家に飼われた勇猛《ゆうもう》の白犬の為に一度噛み伏せられてピンをとられて以来、俄に弱って著《いちじる》しく老衰して見えた。彼は其の腹慰《はらい》せであるかの如く、何処からかまだ子供々々した牝犬《めいぬ》を主人の家に連れ込んだ。如何に犬好きの家でも、牝犬二匹は厄介である。主人は度々牝犬を捨てたが、直ぐ舞戻《まいもど》って来た。到頭近所の人を頼み、わざ/\汽車で八王子まで連れて往って捨てゝもろうた。二週間前の事である。其後デカが夜毎に帰っては来たが、昼《ひる》は其牝犬を探《さ》がしあるいて居るらしかった。探がし探がして探がし得ず、がっかりした容子《ようす》は、主人の眼にも笑止《しょうし》に見えた。其様《そん》な事で弱って居る矢先《やさき》、自動車に轢《ひ》かるゝ様なことになったのだろう。春秋《しんじゅう》の筆法《ひっぽう》を以てすれば、取りも
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