した。君は医学を専門にして居たが、文芸を好み高山《たかやま》樗牛《ちょぎゅう》の崇拝者で、兄弟打連れて駿州《すんしゅう》竜華寺《りゅうげじ》に樗牛の墓を弔うたりした。君の親戚が当時余の僑居《きょうきょ》と同じく原宿《はらじゅく》にあったので、君はよく親戚に来るついでに遊びに来た。親戚の家の飼犬《かいいぬ》に噛まれて、用心の為数週間芝の血清《けっせい》注射《ちゅうしゃ》に通うたなぞ云って居た。君はまた余に惺々《しょうじょう》暁斎《ぎょうさい》の画譜《がふ》二巻を呉れた。惺々暁斎は平素|猫《ねこ》の様につゝましい風をしながら、一旦酒をあおると欝憤《うっぷん》ばらしに狂態《きょうたい》百出当る可からざるものがあった。画帖《がちょう》の画も、狸が亀を押しころがしてジッと前足で押さえて居たり、蛇が羽《はば》たく雀をわんぐりと啣《くわ》えて居たり、大きな猫が寝そべりながら凄《すご》い眼をしてまだ眼の明かぬ子鼠の群を睨《にら》んで居たり、要するに熬々した頭の状態が紙の一枚毎にまざ/\と出て居た。安達君の贈物だけに、一種の興味を感じた。
君は其年医学士になって郷里紀州に帰り、妻を迎え子をもうけ、開業
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