ゃくだつしゃ》が大なる敗者《はいしゃ》に対して感ずる一種の恐怖を感ぜざるを得なかった。関翁が曾て云われた、山中で山葡萄《やまぶどう》などちぎると猿《さる》に対して気の毒に思う、と。本当だ。山葡萄をちぎっては猿に気の毒、コクワを採《と》っては熊に気の毒、深林を開いてはアイヌに気の毒なのも、自然である。そこで余は思った、熊|一変《いっぺん》せばアイヌに到らん、アイヌ一変せば日本人《シャモ》に到らん、日本人《シャモ》一変せば悪魔に到らん。余はアイヌを好む。尤も熊を好む。
 天幕を出る時ぽと/\落ちて居た雨は止《や》み、傘《かさ》を翳《さ》す程にもなかった。炭焼君《すみやきくん》の家で昼の握飯《にぎりめし》を食って、放牧場《ほうぼくじょう》の端《はし》から二たび斗満|上流《じょうりゅう》の山谷《さんこく》を回顧し、ニケウルルバクシナイに来ると、妻は鶴子を抱《だ》いて駄馬《だば》に乗った。貢君《みつぎくん》が口綱《くちづな》をとって行く。後から仔馬《こうま》がひょこ/\跟《つ》いて行く。時々道草を食って後《おく》れては、遽《あわ》てゝ駈《か》け出し追《おっ》ついて母馬《はは》の横腹《よこはら》に
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