が如く去り行く」と歌うたも無理はない。青空は今南の一軸に巻き蹙《ちぢ》められ、煤煙《ばいえん》の色をした雲の大軍は、其青空をすら余《あま》さじものをと南を指してヒタ押しに押寄《おしよ》せて居る。つい今しがたまで雨を恋しがって居た乾き切った真夏《まなつ》の喘《あえ》ぎは何処へ往ったか。唯十分か十五分の中に、大地は恐ろしい雨雲の下に閉じこめられて、冷たい黯《くら》い冥府《よみ》になった。
 雲の運動は秒一秒|劇《はげ》しくなった。南を指して流るゝ雲、渦《うず》まく雲、真黒に屯《とま》って動かぬ雲、雲の中から生るゝ雲、雲を摩《さす》って移り行く雲、淡くなり、濃くなり、淡くなり、北から東へ、東から西へ、北から西へ、西から南へ、逆流《ぎゃくりゅう》して南から東へ、世界中の煙突《えんとつ》と云う煙突をこゝに集めて煤煙の限りなく涌《わ》く様に、眼を驚かす雲の大行軍《だいこうぐん》、音響《おと》を聞かぬが不思議である。
 彼等は驚異の眼を※[#「目+登」、第3水準1−88−91]って、此活動する雲の下に魅せられた様に彳《たたず》んだ。冷たい風がすうっすうっと顔に当る。後《おく》れ馳せに雷《かみなり》が
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