る。
昨日|石狩岳《いしかりだけ》に雪を見た。汽車の内も中々寒い。上川《かみかわ》原野を南方へ下って行く。水田が黄ばんで居る。田や畑の其処《そこ》此処《ここ》に焼《や》け残りの黒い木の株《かぶ》が立って居るのを見ると、開《ひら》け行く北海道にまだ死に切れぬアイヌの悲哀《かなしみ》が身にしみる様だ。下富良野《しもふらの》で青い十勝岳《とかちだけ》を仰ぐ。汽車はいよ/\夕張と背合わせの山路《やまじ》に入って、空知川《そらちがわ》の上流を水に添《そ》うて溯《さかのぼ》る。砂白く、水は玉よりも緑である。此辺は秋已に深く、万樹《ばんじゅ》霜《しも》を閲《けみ》し、狐色になった樹々《きぎ》の間に、イタヤ楓《かえで》は火の如く、北海道の銀杏なる桂は黄の焔《ほのお》を上げて居る。旭川から五時間余走って、汽車は狩勝《かりかつ》駅に来た。石狩《いしかり》十勝《とかち》の境《さかい》である。余は窓から首を出して左の立札《たてふだ》を見た。
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狩勝停車場
海抜一千七百五十六|呎《フィート》、一二
狩勝トンネル
延長参千九|呎《フィート》六|吋《インチ》
釧路百十九|哩《まいる》八|分《ぶ》
旭川七十二哩三分
札幌百五十八哩六分
函館三百三十七哩五分
室蘭二百二十哩
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三千|呎《フィート》の隧道《とんねる》を、汽車は石狩から入って十勝へ出た。此れからは千何百呎の下りである。最初蝦夷松椴松の翠《みどり》に秀《ひい》であるいは白く立枯《たちか》るゝ峰を過ぎて、障るものなき辺《あたり》へ来ると、軸物の大俯瞰図のする/\と解けて落ちる様に、眼は今汽車の下りつゝある霜枯《しもがれ》の萱山《かややま》から、青々とした裾野につゞく十勝の大平野を何処までもずうと走って、地と空《そら》と融《と》け合う辺《あたり》にとまった。其処《そこ》に北太平洋が潜《ひそ》んで居るのである。多くの頭が窓から出て眺める。汽車は尾花《おばな》の白く光る山腹を、波状を描《か》いて蛇の様にのたくる。北東の方には、石狩、十勝、釧路、北見の境上《きょうじょう》に蟠《わだかま》る連嶺《れんれい》が青く見えて来た。南の方には、日高境の青い高山《こうざん》が見える。汽車は此等の山を右の窓から左の窓へと幾回か転換して、到頭平野に下りて了うた。
当分は※[#「木+解」、第3水準1−86−22
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