出た。
曇った暗《くら》い夜である。
八幡下の田圃まで往って東を見る。田圃向うの黒い村を鮮《あざ》やかに劃《しき》って、東の空は月の出の様に明るい。何千何万の電燈《でんとう》、瓦斯《がす》、松明《たいまつ》が、彼夜の中の昼を作《な》して居るのであろう。見て居ると、其|夥《おびただ》しい明光《あかり》が、さす息引く息であるかの様に伸《の》びたり縮んだりする。其明りの中から時々|電《いなずま》の様な光《ひかり》がぴかりと騰《あが》る。
「何の光だろう?」
「写真を撮《と》るマグネシウムの光でしょうか」
「否《いや》、弔砲の閃光《ひかり》かも知れん」
先程から引つゞいて、大きな心臓《しんぞう》の鼓動の如く、正《ただ》しい時を隔《へだ》てゝ弔砲が響《ひび》いて居る。――あゝ鐘が鳴って居る。南のは東覚院《とうがくいん》、宝性寺《ほうしょうじ》、安穏寺《あんのんじ》、北のは――寺、――寺、東にも、西にも、おのがじし然も申合わせた様に、我君|眠《ねむ》りませ、永久《とこしえ》に眠りませ、と哀音長く鳴り連れて居る。二つの響はあたかも余等の胸《むね》の響に通うた、砲声の雄叫《おたけ》び、鐘声の悲泣《ひきゅう》。
都も鄙《ひな》も押並《おしな》べて黒きを被《き》る斯大なる哀《かなしみ》の夜に、余等は茫然《ぼうぜん》と東の方を眺めて立った。生温《なまあたた》かい夜風がそよぐ。稲の香《か》がする。
「行《い》きなさるかね」半丁ばかり北の方で突然|人声《ひとごえ》がした。
「エ、些《ちっと》ンべ行って見べいと思《も》って」
田圃道《たんぼみち》を東の方へ人の足音がした。やがてパチ/\と拍手《かしわで》の音が闇《やみ》に響く。
轜車《じゅしゃ》は今|何《ど》の辺を過ぎさせられるのであろう?
[#地から3字上げ](大正元年 九月十三日)
[#改ページ]
東の京西の京
(明治天皇の御始終)
西なる京《きやう》に君は生《あ》れましき。
西なる京に生れ玉へる君はしも、東に覇府《はふ》ありてより幾百年、唯東へ東へと代々《よよ》の帝《みかど》父祖《ふそ》の帝の念じ玉ひし東征の矢竹心《やたけごころ》を心として、白羽二重に緋《ひ》の袴《はかま》、五歳《いつつ》六歳《むつつ》の御遊《ぎよいう》にも、侍女《つかへをみな》を馬にして、東下《あづまくだ》りと宣《の》らしつゝ
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