《あおかや》。見れば、眼に入る緑は皆動いて居る。庭の桔梗《ききょう》の紫|揺《うご》き、雁来紅《けいとう》の葉の紅|戦《そよ》ぎ、撫子《なでしこ》の淡紅|靡《なび》き、向日葵《ひまわり》の黄|頷《うなず》き、夏萩の臙脂《えんじ》乱れ、蝉の声、虫の音《ね》も風につれて震《ふる》えた。夕日傾く頃となれば、風はます/\涼しく、樹影《こかげ》は黒く芝生に跳《おど》った。
「秋来ぬと眼にはさやかに見えねども風の音にぞ驚かれぬる」。風の音に驚くばかりかは、さやかに眼に見えて立つ秋の姿《すがた》である。
昨夜は雁声《がんせい》を聞いた。
今朝向うの杉の森に「ツクツクウシ、ツクツクウシ」と云うほのかな秋蝉の声を聞いた。
暦《こよみ》を見たら、今日が立秋である。
八
八月十五日。
此頃のくせで、起き出る頃は、毎《いつ》も満目《まんもく》の霧《きり》。雨だなと思うと、朝飯食ってしまう頃からからりと霽《は》れて、申分なき秋暑《しゅうしょ》になる。
隣の大豆畑に群《むら》がったカナブンの大軍が、大豆の葉をば食い尽《つく》して、今度は自家《うち》の畑に侵入《しんにゅう》した。起きぬけに、夫婦して莚《むしろ》を畑にひろげ、枝豆や苺《いちご》や果樹に群がるカナブンを其上に振《ふる》い落して、石油の空鑵《あきかん》にぶちあけ、五時から八時過ぎまでかゝって、カナブンの約五升を擒《とりこ》にし、熱湯を浴《あび》せて殺した。でもまだ十分の一もとれない。
あまり美事《みごと》の出来だからと云うて、廻沢《めぐりさわ》から大きな水瓜《すいか》唯一個かついで売りに来た。緑地に黒縞《くろしま》のある洋種の丸水瓜《まるすいか》である。重量三貫五百目、三十五銭は高くない。井戸に冷《ひ》やして、午後切って食う。味も好かった。
一月おくれの盆で、墓地が賑《にぎ》やかである。細君が鶴子の為に母屋《おもや》の小さな床に茄子馬《なすうま》をかざり、黒い喪章《もしょう》をつけたおもちゃの国旗をかざり、ほおずきやら烏瓜《からすうり》やら小さな栗やら色々|供物《くもつ》をならべて、于蘭盆《うらぼん》の遊びをさせた。
風鈴《ふうりん》の短冊《たんざく》が先日の風に飛ばされたので、先帝の「星のとぶ影のみ見えて夏の夜も更け行く空はさびしかりけり」の歌を書いて下げた。西行《さいぎょう》でも詠《よ》みそうな
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