こで字下げ終わり]
などはがきに書いて来た。
 翌年の春、突然他の紀州の人から安達君が発狂して自殺したと知らして来た。驚いて令弟《れいてい》宛《あて》に弔状《ちょうじょう》を出したら、其れと行き違いに先の人から、安達君は短刀で自殺しかけたが、負傷したまゝで人に止《と》められたと云って、紀州の新聞を一枚送って来た。其れには安達君の直話《じきわ》として、苟《いやしく》も書を読み理義《りぎ》を解する者が、此様な事を仕出来《しでか》して、と恥じて話して居た。
 余は慰問状を出した。其れが紀州に届いたと思う頃、令弟から安達君は到頭《とうとう》先度の傷の為に亡くなった、と知らして来た。
 安達君は余の発狂を見舞に来てくれたが、余は安達君の病原《びょうげん》に触《ふ》るゝことが出来なかった。
 記念の暁斎《ぎょうさい》画譜《がふ》は大切《だいじ》に蔵《しま》って居る。
[#改丁]
[#ここで上巻終わり]

   落穂の掻き寄せ

     デデン

 一月一日
 七時|起床《きしょう》。戸を開けば、霜如雪《しもゆきのごとし》。裏の井戸側《いどばた》に行って、素裸《すっぱだか》になり、釣瓶《つるべ》で三ばい頭から水を浴びる。不精者《ぶしょうもの》の癖《くせ》で、毎日の冷水浴をせぬかわり、一年分を元朝《がんちょう》に済《す》まそうと謂うのである。
 戸、窓《まど》の限りを明《あ》け、それから鶏小屋《とりごや》の開闢《かいびゃく》。
 畑《はたけ》に出て紅《あか》い実付《みつき》の野茨《のばら》一枝《ひとえだ》を剪《き》って廊下の釣花瓶《つりはないけ》に活《い》け、蕾付《つぼみつき》の白菜《はくさい》一株《ひとかぶ》を採《と》って、旅順《りょじゅん》の記念にもらった砲弾《ほうだん》信管《しんかん》のカラを内筒《ないとう》にした竹の花立《はなたて》に插《さ》し、食堂の六畳に飾《かざ》る。旧臘《きゅうろう》珍らしく暖《あたたか》だったので、霜よけもせぬ白菜に蕾がついたのである。
 十時過ぎ、右の食堂で家族打寄り、梅干茶《うめぼしちゃ》一|碗《わん》、枯露柿《ころがき》一|個《こ》。今日《きょう》此家《ここ》で正月を迎えた者は、主人夫妻、養女、旧臘から逗留中《とうりゅうちゅう》の秋田の小娘《こむすめ》、毎日仕事に来る片眼のかみさん。猫のトラ、犬のデカ、ピン、小犬のチョン、クマ、鶏が十五羽。

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