お》二つランプの光に現《あら》われ、天幕の入口に蹲踞《そんこ》した。若い方は、先刻《さっき》山鳥五羽うって来た白手《しらで》留吉《とめきち》、漢字で立派に名がかけて、話も自由自在なハイカラである。一人は、胡麻塩髯《ごましおひげ》胸に垂《た》るゝ魁偉《おおき》なアイヌ、名は小川《おがわ》ヤイコク、これはあまり口が利《き》けぬ。アイヌの信仰《しんこう》、葬式《そうしき》の事、二三|風習《ふうしゅう》の質問などして、最後に、日本人《シャモ》に不満な点はと問うたら、ヤイコクは重い口から「日本人《シャモ》のゴロツクがイヤだ」と吐《は》き出す様に云った。ゴロツクは脅迫《きょうはく》の意味そうな。乳呑子《ちのみご》連れた女《メノコ》が来て居ると云うので、二人と入れ代りに来てもらう。眼に凄味《すごみ》があるばかり、例《れい》の刺青《いれずみ》もして居らず、毛繻子《けじゅす》の襟《えり》がかゝった滝縞《たきじま》の綿入《わたいれ》なぞ着て居る。名もお花さんと云うそうだ。妻が少し語を交《まじ》えて、何もないので紫《むらさき》メレンスの風呂敷《ふろしき》をやった。
惜しい夜も更《ふ》けた。手を浄《きよ》めに出て見ると、樺の焚火《たきび》は燃《も》え下《さが》って、ほの白い煙《けむり》を※[#「風+昜」、第3水準1−94−7]《あ》げ、真黒な立木《たちき》の上には霜夜の星|爛々《らんらん》と光って居る。何処《どこ》かの天幕でぱっと火光《あかり》がさして、黒い人影が出て来たが、直ぐ入って了《しま》った。川音が颯々《さあさあ》と嵐の様に響《ひび》く。持て来た毛布までかさねて、関翁と余等三人、川音を聞き/\趣《おもむき》深い天幕の夢を結んだ。
九月二十八日。微雨。
関翁は起きぬけに川に灌水《かんすい》に行《ゆ》かれた。
朝飯後、天幕の諸君に別れて帰路に就《つ》く。成程《なるほど》ニオトマムは山静に水清く、関翁が斗満《とまむ》を去って此処に住みたく思うて居らるゝも尤である。然し余等は無人境のホンの入口まで来たばかり、せめてキトウス山見ゆるあたりまで行かずに此まゝ帰って了うのは、甚|遺憾《のこり》多かった。
帰路《きろ》余は少し一行に後《おく》れて、林中《りんちゅう》にサビタのステッキを伐《き》った。足音がするのでふっと見ると、向《むこ》うの径《こみち》をアイヌが三人歩いて来る。真先《まっ
前へ
次へ
全342ページ中202ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 健次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング