/\、手代《てがわ》りでやるだな。野良番が四人《よったり》に、此家の作代に、俺《おら》が家の作代に、それから石山さんの作代に、それから、七ちゃんでも舁《か》いてもらうべい」
 野良番四人の為に蓆の上に膳が運ばれた。赤児の風呂桶大《ふろおけほど》の飯櫃《おはち》が持て来られる。食事|半《なかば》に、七右衛門爺さんが来て切口上で挨拶し、棺を舁《かつ》いで御出の時|襷《たすき》にでもと云って新しい手拭を四筋置いて往った。粕谷で其子を中学二年までやった家は此家《ここ》ばかりと云う程万事|派手《はで》であった故人が名残《なごり》は、斯様《こん》な事にまであらわれた。

       四

「念仏でもやるべいか」
と辰爺さんが言い出した。「おい、幸さんとこの其児、鉦《かね》を持て来いよ」
 呼ばれた十二三の子が紐《ひも》をつけた鉦と撞木《しゅもく》を持て来た。辰爺さんはガンと一つ鳴らして見た。「こらいけねえな、斯様《こん》な響《おと》をすらァ」ガン/\と二つ三つ鳴らして見る。冴《さ》えない響がする。
「さあ、念仏は何にしべいか。南《な》ァまァ陀《だ》ァ仏《ぶつ》にするか。ジンバラハラバイタァウンケンソバギャアノベイロシャノにするか」
「ジンバラハラバイタァが後生《ごしょう》になるちゅうじゃねいか」仁左衛門さんが真面目に口を入れた。「辰さん、お前《めえ》音頭《おんどう》をとるンだぜ」
「※[#「口+云」、第3水準1−14−87]《うん》、乃公《おら》が音頭とるべい。音頭とるべいが、皆であとやらんといけねえぞ。音頭取りばかりにさしちゃいけねえぞ――ソラ、ジンバラハラバイタァ」ガーンと鉦が鳴る。
「ジンバラハラバイタァ――」仁左衛門さんが真面目について行く。多くは唯笑って居る。
「いかん/\、今時の若けい者ァ念仏一つ知んねえからな。昔は男は男、女は女、月に三日宛寄っちゃ念仏の稽古したもンだ」辰爺さん躍起《やっき》となった。
「教えて置かねえからだよ」若い者の笑声が答える。
「炬火《たいまつ》は如何《どう》だな。おゝ、久《ひさ》さんが来た。久さん/\、済まねえが炬火を拵《こさ》えてくんな」
 唇の厚い久さんは、やおら其方《そち》を向いて「炬火かね、炬火は幾箇《いくつ》拵えるだね?」
「短くて好《え》えからな、四つも拵えるだな。そ、其処の麦からが好いよ」
「※[#「口+云」、第3水準1−
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