のかけらに食い込んだ氷に杖を打ち込んで、また東へ向かって登って行った。
 私たちはガッグと呼ばれる岩角に来た。すぐ右手は、シュトラールエックホルンの尾根つづきであるが、頭の上まで薄青く、銀河のようにつづいた積雪のほかには何も見えない。
 雪は、ガッグのはずれから、また急に深くなって、右側の急斜に沿うてぐるっと曲がって行くと、昨日の足跡はそこでばったり止まって、目の前には、ひろびろとした雪田が横たわる、シュレック・フィルンである。
 ろうそくが惜しいので、ランターンを消してしまって、この昨日踏み固めに来た終点で、ひいて来たロープの上に腰をおろして一休みした。三千三百メートルと、地図に記された地点である。
 ランターンを消してしまうと、目はようやく暗がりに慣れて、星明かりが思ったよりも明るくなる。私たちの正面には、クーロアールが胸をつくばかりにつっ立っている。まっ黒にそびえた、そのアレトに境されて、下はクーロアールの、「辛うじて積雪をとどめ得る」と記載された急斜で、上は満天の星が、グロース・シュレックホルンの空にばかり集まったように忙しくまたたいている。アレトの上を斜めに流れたのを、銀河とばかり思っていたが、それは空に凍りついて、じっといつまでも動かない薄雲にすぎなかった。
 もう四時半になった、山は依然として薄暗く、空にはまだ暁の色はただよわない、そしてまた一同が立ち上がった折も、再びランターンの光を借りなくては、クレヴァースの口を開いた、シュレック・フィルンを横切ることはできなかった。
 ここからもう足形はない、雪は堅く凍って、靴底の釘がガリガリ食い入るだけで、今までよりもかえって歩きやすい、しかし私たちは、注意に注意して、大小のクレヴァースの間を縫って、静かに、つま先上りのフィルンを登って行った。
 ある時には、飛び越せると思ったクレヴァースが思いのほか広くて、せっかく来た暗がりのフィルンを、あともどりしてぐるっと遠回わりに向こう側に渡ったこともある、こうしてクーロアールの直下までたどりつくと、そこに二列の非常に大きなクレヴァースがある、昨日雪踏みに来た時、遠くから眺めて、あれをどうして飛び越すのかと思ったが、近づくとヘッスラーの言った通り、その二列はフィルンの間に食い違いになって、狭い雪橋《シュネーブリュッケ》が斜めにクレヴァースを横切っている、私たちは難なくそ
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