箱根の山々
近松秋江

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)短艇《ボート》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一山|闃《げき》として

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数) 
(例)※[#二の字点、1−2−22]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ぶら/\歩いて
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 夏が來て、また山の地方を懷かしむ感情が自然に私の胸に慘んでくるのを覺える。何といつても山を樂しむのは夏のことである。曾遊の夏の山水風光を、かうして今都會の中にゐて追憶して見るさへ懷かしさに堪へないで、魂飛び神往くの思ひがするのである。
 日光の奧中禪寺湖の短艇《ボート》の上で遠く仰望した男體山の雄姿。そこからまだ三里の山奧を巡つて入つていつた湯の湖の畔、自然がいかなる妙技を以つて作り成したかと思はれる人工その物の如き庭園の草樹を分けて流れる潺流の美、盛夏八月既に秋冷を感ずる湯元の浴舍の座敷から眞青な夏草
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