気があったら来てもええ、その気がなかったら来てもらわいでもええ。……私そのつもりでいました」彼女は静かな調子ですこし人を戯弄《からか》うようにいう。
なるほどそう言えば、ぼんやりしているようでも、女がよく記憶しているとおりに、彼女に、ずっと初めに金品などをくれてやった時分には、そんなことを言ったように思う。それは、女にどんな深い関係の人間があるかわからないための、こちらの遠慮であると同時に、また自分の方へ彼女を靡《なび》き寄せようとする手もまじっていたのであった。けれども女の方でも後には、そんな考えでのみこちらの扶助を甘んじて受けていなかったことは、長い間の経緯《いきさつ》で否応《いやおう》なしに承知しているはずであった。
「うむ、それは、あんたのいうとおり、初めはそんなことを言っていたことも覚えている。けれどもお前もだんだん、そんなつもりばかりで私に長い間依頼していたのではなかったろう」
そういうと、女はそれに何といって応《こた》えたらいいかと、ちょっと考えているようであったが、
「そない金々て、お金のことをいわんとおいとくれやす」と、また口を突いていった。
それで、大分心が平
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