通りならぬ病気をしているのに、傍に付いていて介抱してやらないということがありますか」と小言をいうようにいうと、母親は、少し顔を和らげて、
「ええ、私も付いていてやりたいは山々どすけど、今いうとおり、医者に見せることもいらん、薬も飲まないでもええ、ただ静かにしておりさえすりゃ好えのやそうにおすさかい、親類のおかみさんが、お母はん、もうちょっとも心配することはない、確かに癒してあげますよって、安心しといでやすいうてくりゃはりますので、そこへ委《まか》せてあります」
「遠い親類て、どこです?」
 そういって訊ねても、母親ははっきりどこということをいわずに、ただ、
「ずっと遠いところどす。田舎の方どす」という。
「田舎て、どこの田舎です? お母はん、あなたにも、あんなにいうておったじゃありませんか、私と一処に家を持って、お園さんが廃《や》めるまで待っていましょうって。そんな病気をなぜ私に知らしてくれなかったのです」
 私が、怨言《うらみごと》まじりに心配して訊くので、母親も返事を否むわけにも行かず、折々考えるようにしながら、「あんたはんにも一遍相談したい思いましたけど、そうしておられしまへんが
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