ったので、ゆうべ一と夜寝ずにああこうと考えていた順序に従って、朝飯の箸《はし》を置くとそのまま出て往き、どこよりも先ず祇園町の裏つづきの、例の、女が先にいた家にいって、階下《した》の家主の老婦人のもとを訪《たず》ねてみたが、今朝《けさ》は宅にいるはずだと思っていたのに、昨夜《ゆうべ》のとおりにやっぱり門に錠がおりている。しかたなく路次の入口の店屋で訊《き》くと、
「お婆さんは、上京の方の親類とかに病人があるとかいうて、一週間ほど帰らんいうてお往きやして、そうどんなあ、それがもう二、三日前のことどす」といってくれる。
私は、そこに突っ立ちながら、「二、三日前」それなら何という残念なことをしたろう。田舎《いなか》から京都に戻ったあの翌日《あくるひ》高雄へ紅葉を見に行かずに、ここへ来たら、何とか女の様子も分ったろうに、と、思ったがしかたがない。それにもうここには三月も前からいなくなっているのだから、家主のお婆さんがいたとて委しいことは分らないかも知れぬ。昨夜松井の内のお繁婆さんの話の端に、叔父さんというのは、油の小路とか三条とか言っていた。それに、ずっと以前に女から一人の叔父は油の小路とか
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