を切ってしまった。そして、仮に※[#「言+虚」、第4水準2−88−74、431−上−15]《うそ》にしても……※[#「言+虚」、第4水準2−88−74、431−上−16]にちがいないと思うが……病気で廃めたというだけのことに、せめて幾らか頼みの綱が繋《つな》がっているような気がして、それだけに心に少し勢いがついて、宿にとって返し、夜の寒さに風邪を恐れながら、思いきって厚着になり、また祇園町へと出かけていった。今から二た月前の九月の末、紀州の旅から京都に帰って来て、久しぶりに会ったばかりの、多年東京で懇親《ねんごろ》にしていた知人がつい二十日《はつか》ばかり前、自分も田舎に往って流行風邪《はやりかぜ》で臥《ふ》せっている時に流行感冒であえなく死んだということが強く胸に刻みつけられているので、不幸なる自分がまた風邪にでも罹って、このまま死にでもしたら、どんなに悲惨であろう、そんなことがあったら執念が残ってとても死にきれはせぬ。
 そんなことまでも考えながらまた祇園町まで出て来ると、十一月末の夜は闌《ふ》けていても、廓の居まわりはさすがにまだ宵の口のように明るくて、多勢の抱妓《かかえ》を置い
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