うで、なるたけ訊かれずに、そうっとしておきたい風があるのは、今年のまだ正月時分から、その金の使途について、急にやかましく、私から訊《たず》ねてよこした再三再四の手紙に対する返事で一向要領を得なかったのでも、それがわかっているし、今度京都に来て、先日《こないだ》から、祇園町《ぎおんまち》の茶屋で久しぶりに逢《あ》った時にも、それを言うと、妙に話を脇《わき》へそらすようにするし、そうかといって、女のいうままに下河原《しもがわら》の旅館の方にいって要領を得た話を訊こうとしても、そこでもなるべくそんな話はいい出さないようにして、一寸|遁《のが》れに逃《のが》れておりたいのが見えていた。そして、あの晩とうとう自分をこの二階に伴《つ》れて来たのであったが、こうして、しばらくでも女と一緒にいて、母親にもともどもに大事にせられていると、長い間自分の望んでいた願いが叶《かな》ったようなものであるが、女の身体が今におき、やっぱり、借金のために廓《くるわ》に繋《つな》がっているのであっては、目前の歓楽はうたかたのごとくはかない。
「着物がそんなに出来たのも好いことだが、あんたの借金の方は一体どうなっているの
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