のようじゃないか」私は幾らか胸苦しい反感をもってそういうと、
「何でも構いまへん。あの人たちが生きてたら、私、もうとうにこんな商売してえしまへん」
 女は向うをむいて、せっせと、取り拡《ひろ》げた着物を畳みながらこちらの言葉にわざと反抗するように、そう言っている。私は、そんな言葉を聴《き》かされると、また、あまり好い心地《ここち》はしなかった。そして腹の中で、
「それじゃ、四、五年も前から、自分ばかりに、身体《からだ》の始末をつけてもらいたいようにいって頼んでいたのは、みんな※[#「言+虚」、第4水準2−88−74、415−上−4]《うそ》であったかも知れぬ」と思ったが、女の厭《いや》がるようなことを、くどく追窮して訊《き》くのはかえって好くないと思って、黙っておいた。
 けれども、もう此間《こないだ》から訊こう訊こうと思って、幾度もいい出しかけては、差し控えていた、女の借金が今どうなっているか、また自分が長い間仕送った金が、その借金を減らすために、どういう具合に有効に使用せられているか否かを明細に訊きたいと思った。女は、そのことを突っ込んで訊かれるのが、痛いところへ触《さわ》られるよ
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