来たので二人とも方向《ほうがく》のつかぬ街筋《まちすじ》に出てしまった。
 二、三間先に走っていたお宮ははたと佇立《たちどま》って、
「どちらへ行くの?」けろけろとして訊《き》いた。
 私は、やっとそれで取り着く島を見つけたような気になって、
「こっち行くんだよ」と、いい加減に先に立って歩いた。
「なぜそんなにぷりぷりするんだい」
「あなた私をうっちゃってゆくんだもの」
「お前、私と一緒に歩くのがさもさも怠儀そうだから」
 やっと葭町《よしちょう》から人形町の見えるところまで来たことに気がつくと、お宮は、
「あなた、私は身体が悪いんですから、もうお帰んなさいッ」そんな棄て辞《ぜりふ》をいっておいて、ついと先に立って駆けていった。
 私は、思いきって帰ってしまうかと思ったが、何で面白くもない加藤の家の二階にそのまま戻れるものか。またのめのめとお宮の後を追うて一と足|後《おく》れに置屋に舞い戻って来ると、
「一体どうしたんです? 今宮ちゃん、息をはずませて帰って来て、雪岡さんと喧嘩《けんか》をしたって、それっきり、何にもいわないで二階に上ってしまいましたよ。……若い人たちのすること私どもに
前へ 次へ
全100ページ中61ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
近松 秋江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング